これまでの温泉
由布院温泉「山のホテル夢想園」
……四方なだらかな山に囲まれて、そして一方はもくもくともりあがつた由布岳 所謂、豊後富士である 高原らしい空気がたゞようてゐる、由布岳はいい山だ、おごそかさとしたしさとを持つてゐる 中腹から上は枯草、絶頂は雪 登りたいなあと思ふ こゝは由布院中の由布院ともいふべく、湯はあふれてゐるし、由布岳は親しく見おろしてゐる ……とにかく清遊地としては好適であることを疑はない。山色夕陽時といふ、私は今日幸にして、落日をまともに浴びた由布岳を観たことは、ほんたうにうれしい この宿は評判だけあつて、気安くて、深切で、安くて、よろしい、殊に、ぶくぶく湧きでる内湯は勿体ないほどよろしかつた 寝たいだけ寝たからだ湯に伸ばす 昭和五年十一月十二日の日記より 旅に生き、酒に生き、句作に生き、一宿一飯、町から村、村から町へ、一鉢の施しを乞うて旅をした僧侶であり、放浪の俳人であった山頭火が湯布院を訪れた時。 |