虚子の句碑



大夕立来るらし由布のかき曇り

 昭和2年(1927年)、大阪毎日新聞と東京日日新聞が主催して「日本八景」の選定が行われ、温泉の部で別府温泉が選ばれた。翌3年8月には文豪8人による紀行文を収めた「日本八景」が発行され、虚子は別府温泉を担当した。

七月二十一日。発、別府に至る。日本八景の一に当選したる別府の
記事を大毎、東日社より委託せられしため。

別府の紀行を『大阪毎日新聞』と『東京日日新聞』紙上に連載す。

湯布院村に至る。

金隣湖。

 萍の温泉の湧く岸に椅り茂る

自動車を下る。

 夏草に油蝉なく山路かな



 大夕立来るらし由布のかき曇り


 昭和21年(1946年)11月20日、星野立子は由布院・山水閣で小句会。

由布院・山水閣で小句会。

 芒山ばかりわがゆくこの山も

 これがこの由布といふ山小六月


別府市城島高原の県道11号別府一の宮線沿いに城島高原パークがある。

城島高原パークバス停近くに虚子親子句碑があった。



  ここに見る由布の雄岳や蕨狩
   年尾

大夕立来るらし由布のかき曇り
 虚子

  これがこの由布といふ山小六月
   立子

年尾の句は『年尾句集』に収録。立子の句は『笹目』に収録。

虚子親子句碑

 中央が高浜虚子、右が長男の高浜年尾、左が次女の星野立子の作である。句碑に面して立つと右に高くそびえている山が由布岳である。

 昭和2年7月別府市から湯布院へ山越えした時に見た由布岳の作品である。この夏は「連日降雨を見ぬ」日照り続きで、農家の人も雨を乞い祈っていた。

 美しい由布岳がかき曇ったのは大夕立の来る前兆かと情景をリアルに描き出した。高浜虚子の句碑は全国に221基建設されている。これは明治以降の俳人で数の多い正岡子規大谷句仏、臼田亜浪、村上鬼城らをはるかにしのいでいる。

 昭和27年(1952年)11月8日、句碑除幕式。別府市建立。稲畑汀子も除幕式に参列した。

城島台、句碑除幕

 赤白の餅の飛び交ふ草紅葉

 落したる句帳を隠す草紅葉

 枕許の秋灯しばしば点けて消し


めぐまれしこの秋晴に句碑除幕


 十一月八日。城島高原、句碑除幕式。

  紅葉よしこの山この山又次の山


 別府から南西へ湯布院まで、バスで一時間、その途中に城島高原がある。鶴見、由布の秀峰を仰ぐ一面の草原で、湖あり、ヒュッテあり、山のホテルがあって、九州の軽井沢といわれて居る。

 姿勢の美しい由布岳を背景にして、道路の少し上、茶店の西の方に、徳山石と称する上質の花崗岩を磨いた太鼓状の句碑はある。直径六尺、厚さ八寸位。昭和二十七年十一月八日除幕式があげられ、虚子翁は年尾、立子両氏を伴って臨席された。

  こゝに見る由布の雄岳や蕨狩
   年尾

大夕立来るらし由布のかき曇り
 虚子

  これがこの由布といふ山小六月
   立子

と八行に併刻されて居る。

 虚子翁のこの句は、昭和二年夏、別府吟遊中の作である。この時、一行は湯布院金隣湖畔の亀の井別荘に一泊した。ここからの由布岳眺望はすばらしい。折からその年は日照りつづきで、農家もその他の人々も、しきりに雨を祈って居た。道々それを眺めた虚子翁の胸裡には、其角の昔語りが徂徠したでもあろうか。一天漸く暗み、慈雨まさに到らんとする由布の頂を仰いでこの作があった。

 鏡のように磨かれた碑面は、今もまともに夕陽を浴びて満月の如くかがやいて居る。


昭和34年(1959年)6月、山口誓子は虚子親子句碑を見に行った。

 別府へは数えきれぬほど行ったが、城島高原に遊んだのは、昭和三十四年の六月だった。その高原は由布岳の東の麓にある。大分県湯布院町。高原ホテルにくつろいで、虚子親子句碑を見に行った。バス道の北側に南に向いている。御影石、扁平な太鼓型。

 右から

   ここに見る由布の雄岳や蕨狩

   大夕立来るらし由布のかき曇り

   これかこの由布といふ山小六月

 中央が虚子、右が年尾、左が立子。

 句碑に面して立つと、由布岳が左に高く聳えている。豊後富士と云われるこの山は男性なのだ。同じ男性の祖母山と、女性の鶴見岳を争ったのか。

 「大夕立」は「おおゆだち」と読む。由布岳のかき曇ったのは、大夕立の来る前兆か、と詠ったのだ。大景である。


昭和37年(1962年)9月22日、高野素十は城島高原を訪れている。

   九月二十二日 別府大会

日々の是好日や秋茄子

   同 城島高原

秋風のかく吹く時の櫟の木

『芹』

昭和44年(1969年)10月12日、星野立子は城島高原の句碑を見る。

 再び城島高原に戻り 句会場へ 句碑を見る

花野行く太陽の下風の中

秋空の下大勢に逢ひ別れ

句碑見んと花野の小道踏み分けて


平成9年(1997年)4月20日、現在地に移転。

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