虚子の句碑
よくぞ来し今青嵐に包まれて
登別市カルルス町のカルルス温泉に高浜虚子の句碑があるというので、行ってみた。 |
温泉場より西に数町行けば、勝鬨の瀧あり。一渓の水堰きとめられて、湖水となり、水力電気の源となる。なほ西一里にして、カルゝス温泉に到るべし。途中右に三四町も入れば、橘池とて、周囲数町の湖水あり。カルゝス温泉場は温泉宿を加へて、人家二三軒、山中の仙境也、千歳川を隔てゝ、共同浴場あり。酔ひて登別に歌管を聴き、醒めてカルゝスに渓声を聴くも、亦人生の清興たらずんばあらず。
「北海道山水の大観」(登別温泉) |
昭和23年(1948年)6月15日、高浜虚子・高浜年尾・星野立子らは登別温泉に宿泊。翌16日、カルルス温泉に吟行、虚子の歓迎句会で詠まれた句。 |
六月十六日。登別滝の家泊り。第一滝本を見、カルルス温泉に遊び、 午後俳句会。 三千の浴客そろひ浴衣かな よくぞ来し今青嵐につゝまれて |
三四十分もたつて漸くカルルスに著いた。先著の人々は 驚ろき又よろこんで父を迎へてくれた。私は又帰りのこ とばかり心にかかつてゐたが、登別と全く反対な静寂な 鄙びた自然のこの温泉に父は勿論、私も来てよかつたと 想つた。風が冷たい。埃がない。人が少ない。何もかも 気に入る。 蔓でまり見に行く行にすぐ交り つるでまり誘はれ歩きして此処に 松蝉が鎌倉あたりで聞く法師蝉に似通つた鳴きかたを する。このカルルス温泉は頭の悪い人によい温泉である とかで、そんな風な若い女の人をちらと見かけてもの淋 しい心持がした。 |
昭和24年(1948年)8月8日、カルルス温泉開湯50周年記念に建立。同36年の水害で流失。 |
昭和38年(1963年)6月24日、星野立子は虚子の句碑が見られなかった。 |
父の句碑「囀や絶えず二三羽こぼれ飛び」を見にゆき度かったが句碑への道が大雨のため行けぬとのことで中止。カルゝス温泉の、「よくぞ来しこの青嵐に包まれて」の句碑は先年の洪水でどこかに流されて見えなくなってしまったという。そういえば部屋についている風呂場はその時の水で壊れたものらしく、大きくひび割れていて使用禁止であった。 松蝉が鳴き出した。宿の女中さんは、あれはひぐらしぜみだという。 |
発つ朝蝦夷春蝉に覚まされて |