金澤にて時宗の庵の侍りけるに。立よりて茶を所望しけるに。庭に殘菊の黄なるを見てよめる。 誰こゝにほりうつしけん金澤や黄なる花さくきくのひともと 此の在所に稱名寺といへる律院はべり。殊の外なる古所にて。伽藍などもさりぬべきさまなる。所々順禮し侍りけり。 |
廿七日 金沢称名寺にまうで、四石八木などいふ古き跡を見ありく。中にも西湖の梅など、花咲るころの見まほし。 |
町屋村にあり。弥勒院と号す。真言律にして南都の西大寺に属す。当寺は亀山帝の勅願所にして、北条越後守平実時の本願、その子顕時の建立なり。(実時を称名寺と号け、又法名を正慧といふ。この地に居住せらる。顕時より金沢を家号とす。顕時、法名を慧日と号す。霊牌に弘安三年三月二十八日に卒すとあり。) |
明治30年(1897年)、伊藤博文は金沢文庫を称名寺大宝院跡に再建したが、関東大震災で失われた。 |
青銅の手ざはりならぬものも無し北條寺の山門のなか 北條の一支族にて名利をばこれに代へたる金澤文庫 みほとけの御稱名寺しかれども文庫の主の名も忘れめや 稱名寺入相の鐘打つことの絶えても秋は寂しかりけり
「落葉に坐す」 |
御障子の四五寸開きしところより夕明りする稱名寺かな 關東の武家の御堂の稱名寺師走にさむし階ひくくして 稱名寺結縁したる御佛のしめしたまへるひかりの銀杏 金澤の文庫の窓のうつれるを翡翠眺めて飛ばぬ池かな
「落葉に坐す」
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