妹が見し棟(あふち)の花は 散りぬべしわが泣く涙 いまだ干(ひ)なくに |
妻のながめた棟(せんだん)の花は今頃もう散ってしまったことだろう。わたしの涙はまだかわいていないのに。 |
君が行き日(け)長く なりぬ山たづの迎へを往 かむ待つには待たじ |
わが君、軽太子が行かれてから随分長い日が経ってしまった。わたしはお迎えにいきましょう。とうてい待ってなどいられません。 |
雪の色を奪ひて 咲ける梅の花 今盛りなり見む 人もがも |
あの雪の白い色を奪い取ったかのように真っ白に咲いている梅の花は今が滿開だ。一緒に見る人があればよいのに。 |
わが園の李(すもも)の花か庭に降る はだれのいまだ残りたるかも |
わが家の庭のスモモの花びらなのだろうか、それとも庭にはらはらと降った雪がまだ溶け遺っているのだろうか。 |
山菅の実成らぬことをわれに依せ 言はれし君は誰とか宿(ぬ)らむ |
やぶらんの実が成ならないように恋がみのらないことを、さも私に関係があるように言い立てられた。あなたはどなたとねんごろになさっているのでしょうか。 |