生れ出づる悩み 物すさまじい朝焼けだ。過まって海に落ち込んだ悪魔が肉付きのいい右の肩だけを波の上に現はしてゐる。その肩のやうな雷電岬の絶嶺を撫でたり敲いたりして叢立ち急ぐ嵐雲は、炉に投げ入れられた紫のやうな光に燃えて、山懐ろの雪までも透明な藤色に染めてしまふ。それにしても 明け方のこの暖かい光の色に比べて、何んと云う寒い空の風だ。長い夜の為めに冷え切った地球は 今その一番冷たい呼吸を呼吸してゐるのだ。 |
源義経一行が難を逃れこの地へやって来た時、雷電岬で休息をとることになった。そこで腰の刀が邪魔になった弁慶は、自慢の力で岬の岩をひねり、そこに刀を掛けたという。 |