旭川市神楽の外国樹種見本林に三浦綾子の文学碑があるというので、行ってみた。 |
風は全くない。東の空に入道雲が、高く陽に輝やいて、つくりつけたように動かない。ストローブ松の林の影が、くっきりと地に濃く短かった。その影が生あるもののように、くろぐろと不気味に息づいて見える。 |
『氷点』は『朝日新聞』朝刊に昭和39年(1964年)12月9日から昭和40年(1965年)11月14日まで連載された。 |
この文学碑は旭川で生まれ、この地で生涯を通じて作家活動を続けてきた妻、綾子の業績を顕彰して建てられました。 見本林の風景は綾子のデビュー作となった「氷点」に、活き活きと描かれています。 この地を訪れた皆さんが人間の生き方を求め続けた三浦文学の世界に触れていただけると幸いです。
三浦光世 |
「氷点」の舞台 No.1 辻口家 |
見本林の中には管理人の古い家と赤い屋根のサイロと牛舎が建っていた。 辻口家は、この見本林の入り口の丈高いストローブ松の林に庭続きとなっている。
(「誘拐」の章) |
「氷点」の舞台 No.2 ストローブ松の林 |
高いストローブ松の梢が風に揺れていた。それは揺れていいるというよりも、幾本ものストローブ松が、ぐるりぐるりと小さく天をかきまわしているような感じだった。
(「線香花火」の章) |
「氷点」の舞台 No.3 ストローブ松の切り株 |
(恋愛をするなら、わたしもこんなに激しく真剣な恋愛をしたいわ) その時、陽子の足もとをリスが走った。おどろいて立上った時、白いワイシャツに黒ズボンの青年が、陽子をじっとみつめているのに気づいた。
(「千島からの松」の章) |
「氷点」の舞台 No.4 堤防 |
陽子ははうようにして、堤防をよじのぼった。堤防にあがってふり返ると、陽子の足あとが雪の中に続いていた。まっすぐに歩いたつもりなのに、乱れた足あとだと、陽子はふたたび帰ることのない道をふりかえった。
(「ねむり」の章) |
「氷点」の舞台 No.5 ドイツトーヒの林 |
そのやわらかい土の上を歩くと不安が足もとからのぼってくるようであった。 窪地に入ると夏枝は何かにつまづいた。みると烏の死骸だった。烏の羽がその周辺に散乱していた。いやな予感がした。
(「誘拐」の章) |
「氷点」の舞台 No.6 川の畔 |
川の畔りに出ると、陽子は北原の手紙に火をつけた。六月のあかるい太陽の下の炎は透明であった。手紙はめらめらと他愛なく、陽炎のように透明な炎となって燃えてしまった。
(「写真」の章) |
「氷点」の舞台 No.7 川原(中洲) |
林をぬけると、美瑛川の流れが青くうつくしかった。川風がほおを刺した。川の凍ったところを渡って、陽子はルリ子が殺されたときいていた川原にたどりついた。
陽子は静かに雪の上にすわった。朝の日に輝いて、雪はほのかなくれないを帯びている。
(「ねむり」の章) |