尾道は瀬戸内海の中央にした天然の良港として一千年の昔から今日まで生々発展して来た。 しかもこの地は風光明媚、四季の眺めもとりどりに面白く、その上に名醸あり佳香あり文芸を語る友も多く、人の情けも艶やかであったので、名ある文人墨客相ついで杖をひき、当地の紳商雅友と盛んに交遊した。 その遺香は千光寺山の文学のこみちに、市中に点在する数々の遺跡にしのぶことができる。 このたび尾道市制百周年を記念し、文学的遺香や環境を保存するために志賀直哉旧居・文学公園、中村憲吉旧居と文学記念室からなる「おのみち文学の館」として再整備するものである。
尾道市 |
一週間程して私は尾道の千光寺といふ寺のある山の中腹に借家して住ふ事にした。私は殆ど日々の便りに此土地の變つた事、隣りの婆さんの親切な事、物價の安い事、仕事も捗どる事などを書いては送つてゐた。
[暗夜行路草稿5] |
香の高い柑橘類 |
燃えるような丹椿 |
濃く暖かい潮の色 |
海べの砂州と嶋々浦わ |
尾道の自然は歌の材料に |
みちみちていた |
少女の追憶は歌の思い出と |
からみ合って私の思春期の |
絵本を美しく |
しているのである |