俳 人

美濃口春鴻

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『露柱庵春鴻句集』

 長翠巣兆道彦、保吉、碩布虎杖葛三とともに白雄八弟の一人。初号春江。露柱庵。

露柱庵 飯田村藤沢より二里
春鴻 美濃口源左衛門

可都里『名録帖』

 享保18年(1733年)、下飯田村の美濃口源左衛門の子として生まれる。幼時は虎松、のち源吾次と称した。

 明和2年(1765年)、白井鳥酔を案内して鎌倉に遊ぶ。

 安永3年(1774年)、春鴻に改名。

 天明2年(1782年)、露柱庵を継承。

 天明3年(1783年)、武蔵野へ行脚。春秋庵で歌仙。

   春秋庵に武野行脚のるすをへて

むさし野や菊を心の日やり旅
春鴻

挟山越けんころもとふ月
白雄

冬ちかみしらふの鷹の餌に倦て
重厚

軒なる橿の雨をふくみし
呉水

蒸々と茶莚はこぶ門の朝
柴居

土竜のあげし土をふみふみ
斜月


 天明4年(1784年)8月、鹿島へ行脚。

   鹿嶋の月見にまかりしころ、途中

旅ごろも香取にぬるゝ月の露


 天明4年(1784年)秋、春秋庵で虎杖庵古慊の判者披露。

  同年11月27日、碓花坊也寥は大光寺で没。

みちのくの空たよりなや霜の声
   白雄

 尺牘寒し図南なる人
   春鴻

みだればこ菴にとしの埃見て
   柴居

 あまくちねづみあとなかりけり
   古慊

 天明5年(1785年)、甲州・信濃行脚。虎杖・伯先を訪ねる。

   かひの国わたらひして、此仏眼禅刹にあそぶ

かひが根やさくら盛に仏生会

   望娥湖

浪すゞし千尺のこほりおもふにぞ


 天明6年(1786年)10月16日、塩田冥々は松烟墨を土産に春秋庵を訪れる。

   めでたき松烟(すみ)を袖にせし人に酬ふ

する墨の香をつく宿のしぐれかな
   白雄

 鄙のたよりに袖寒きころ
   冥々

このやぐら鼬のかよひいづけくて
   春鴻

 天明8年(1788年)4月9日から1週間、白雄は海晏寺で芭蕉百回忌繰り上げ法要を行った。

  同年10月12日、春鴻宅で芭蕉忌を執行。

 寛政3年(1791年)9月13日、加舎白雄没。享年54歳。

 寛政3年(1791年)、信州行脚。9月13日、上田大輪寺で歌仙興行。

天照山大輪寺


 寛政5年(1793年)、白雄三回忌追善集『俳諧冬瓜汁』(露柱庵春鴻編)。

 寛政6年(1796年)3月23日、倉田葛三は春鴻と信州に向かう途中、双烏の紅蓼庵で三吟歌仙を残す。

   寛政六年甲寅三月廿三日 紅蓼庵俳諧連歌

紅梅や雨ふきかけし上草履
   春鴻

眠たさつのる春をもの書
   雙烏

さいきたつ雁のはらはら人なくて
   葛三

  同年、草津・諏訪を経て虎杖庵に滞在。

  同年7月、葛三は虎杖庵滞留中の春鴻と共に奥羽行脚に出る。

   出羽の国わたらひせし頃

雁啼や波ふく浦の日のかへし

   松 し ま

松に霜松島に日のうかみけり


  同年8月、春鴻と葛三は五明を訪問。

   春鴻葛三を送る

稲刈にまきれて笠の見えすなりぬ   五明

 寛政7年(1795年)2月15日、西上人六百遠忌正当法要。秋暮亭興行の歌仙に春鴻の句「おもひよる花の蔭より雲に鳥」がある。

 寛政7年(1795年)、『春秋稿』(第六篇)刊。葛三編。春鴻序。

 寛政9年(1797年)9月10日、鮫洲の海晏寺で白雄七回忌。

海晏禅寺


花紅葉江戸に鹿啼やまもかな

さやけき影の多き有明
葛三

秋いそく酒屋か車水せきて
春鴻


 享和元年(1801年)8月、葛三の秋暮亭再建。『風やらい』。春鴻序。

 享和元年(1801年)8月、『つきよほとけ』伯先跋。

 享和2年(1802年)4月6日、仙鳥没。

   いつの事かとよ仙鳥うし身
   まかるよしそこの友かきの音
   信たるに

扨はとてそなたへ向は柳散る


享和3年(1803年)6月7日、71歳で没。

同年9月、追善集『寢覺の雉子』(伯先・雉啄編)刊。

   春鴻仏を奠る

ときは木のひと葉拾ふも仏事哉


春鴻の句

凩や碎て洗ふ滝の糸

俳諧松魚行』

飛込んだ音は流ぬ蛙かな


貫て帆柱高きかすみかな


ふし咲や折に遠くて近きもの


長閑さや海汲て焚く人の聲


一燈に軒の撓みし灯籠哉


ことごとく名のなき木也おぼろ月


おなじ田に田螺の声も夜半哉


花のもとに鬢かき撫る女かな


なの花や八木に十市に夕附日


   きのふの雨おとゝひの あらしをうらむ

折くちやさかり過たる山ざくら


水上も水しもゝすめり秋の水

俳諧松露庵随筆』

露霜や甲斐の女馬の一つらに

   高麗郡を流るゝこま川と云ふあたりにて

しぐるゝやこまの桴のおくれ乗


うら口や浪うちかへし梅匂ふ


ひとごゝろおなじ桜にふかくいる

かげらふに陶つくる根小屋かな


かたる夜の朱は朱に氷る硯かな


ふる道や真葛に起る夏の雲


古道や真葛におこる夏の雲


水に泡蝶舞かへす時来たり


曙の船まはさゝゝさくらかな


しなぬ身の兔なれ角なれ煖鳥

臘八や先山口の梅の花

ゆくはるのとりしまりなき干潟哉


紅梅や雨ふきかけし上草履


蜆磨船のかたぎや人ひとり

秋かせや髄に入りたる草の虫

玉すりよ命なかゝれはるちかみ


秋いそく酒屋か車水せきて

師走菜をつみあらしたる菴哉


   山家にありて

(あかぎれ)や世を足引の山かせき


秋風や膸に入たる草の虫


道の程立語りするひかんかな


薄紅葉旅さする子ハもたぬなり


うちかへしむすぶや葛の下清水


はつ雪やはなはなしくも松柳


春風やとくもくさらぬ赤大根


人ごゝろ同じ桜に深く入る


棣棠にうしろ門開仏かな


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