俳 書
『熱田皺筥物語』(東藤編)

扇川堂東藤編。
元禄8年(1695年)8月、九衢斎梅人跋。元禄9年(1696年)、刊。
桑名に遊びてあつたにいたる
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あそび来ぬ鰒釣かねて七里迄
| 芭蕉
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旅亭桐葉の主、心ざしあさからざりければ、しばらくとゞまらせむとせしほどに
此海に草鞋(わらんぢ)すてん笠しぐれ
| 芭蕉翁
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むくも侘しき波のから蠣
| 桐葉
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凩に冬瓜(とうぐわ)ふらりとふらつきて
| 東藤
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馬をさへ詠むる雪の朝かな
| 翁
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木の葉に炭を吹おこす鉢
| 閑水
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はたはたと機織音の名乗きて
| 東藤
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しのぶさへ枯て餅買ふ舎かな
| 翁
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しわびふしたる根深大根
| 桐葉
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尾張の国あつたにまかりける比、人々師走の海みんとて船さしけるに
海くれて鴨の声ほのかに白し
| 翁
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串に鯨をあぶる盃
| 桐葉
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おなじく二年の春、又わらんぢをときて、景清が屋敷をとぶらひ、頼朝誕生の旧跡見んとのたまひければ、人々それに応ず。道のほとりにて、
つくづくと榎の花の袖にちる
| 桐葉
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ひとり茶を摘む藪の一つ屋
| 翁
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思ひ出す木曽や四月の桜狩
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京の杖つく岨(そば)の青麦
| 東藤
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寐覚は松風の里、呼続は夜明てから、笠寺は雪の降る日
星崎の闇を見よとや鳴千鳥
| 翁
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磨(とぎ)直す鏡も清し雪の花
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石しく庭の寒(さゆ)るあかつき
| 桐葉
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程なく幻住庵を見捨、武陵に趣たまふ折、支考・桃林(隣)の二法師をともなひて梅人子が許へおはして、
水仙やしろき障子のとも移り
| 翁
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炭の火ばかり冬の饗応(もてなし)
| 梅人
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又、貞徳・宗鑑・守武の画像に東藤子讃を乞けるに、「何を季に、なにを題に、むつかしの讃や」とゑみたまひ、やがて書てたびけり。その句、其こと葉書、
三翁は風雅の天工を受け得て、心匠を万歳に伝ふ。この影に遊ばんもの、誰か俳言を仰がざらんや