俳 書

『古今句集』(鬼子編)


鬼子は白石片倉家第九代当主片倉小十郎村典。岩間乙二に師事。別号停月庵。

天明4年(1784年)8月、自序。

白石城


      古今句集序

古今の名句を選るにはあらす只予か愚眼にその趣のつまひらかなるをひろひて古今句集と名つくるのみ

      天明四年秋八月

      春の部

元朝の見るものにせん富士の山
   宗鑑

梅か香にのつと日の出る山路哉
   芭蕉

古池や蛙飛こむ水のをと
   仝
 江戸
元日や晴て雀のものかたり
   嵐雪

 
鶯の身をさかさまに初音かな
   其角
 鳴滝
正月を馬鹿て暮して二月かな
   秋風
 加賀
分入れは人の背戸なりやま桜
   希因

蝶飛や盆に匂へるさしもくさ
   烏光

鳥の巣の明れは暮る日数かな
   志ら尾

こゝろより立や白根の初かすみ
   樗良

春雨やゆるひ下駄借奈良の宿
   蕪村
 尾張
かへる厂蝦夷か箭先に待るゝな
   暁台
 仙台
鶯や我手にうつれ裳にすかれ
   麦蘿

大雪のものしつかさや明の春
   几圭

其寺の鐘とおもはす夕霞
   蝶夢

 仙台
なつかしや梅の咲ころの土佐日記
   乙二
 安芸
なくさみにうき世捨はや花の山
   風律
 尾張
麦喰し雁とおもへと別れかな
   野水

文は跡に桜さし出す使かな
   其角

      夏の部

負ふた子に髪なふらるゝ暑かな
   その

面白うてやかてかなしき鵜舟かな
   芭蕉

草の葉を落るより飛螢かな
   芭蕉

いふかほや秋は色々のふくへ哉
   仝

昼みれは首筋赤きほたるかな
   仝

立ありく人に紛れて涼かな
   去来

白雨や家をめくりて家鴨鳴
   其角

夕すゝみよくそ男に生れける
   仝

かんこ鳥我も淋しいか飛て行
   麦林
 豊後
すゝしさや髪結直す朝きけん
   りん

蛸壺やはかなき夢を夏の月
   芭蕉

なき人の小袖もいまや土用干
   芭蕉

涼しさの野山に満る念仏かな
   去来

けしの花実は喰れつゝ哀なり
   麦蘿

昼かほやとちらの露も間にあはす
   也有

千金の春にもうらて牡丹かな
   凉袋

郭公のはるかに帰る深山かな
   樗良

うつ蝉やあらしの露のかゝるなり
   乙二

ほとゝきすけふに限りて誰もなし
   尚白

日の岡やこがれて暑き牛の舌
   正秀

      秋の部

月やあらぬ我身ひとつの影法師
   貞徳

しら露や無分別なる置所
   宗因

名月や池をめくりてよもすから
   芭蕉

道はたの木槿は馬に喰れけり
   仝
 加賀
落鮎や日に日に水のおそろしき
   千代尼

はつ秋のこゝろうこきぬ蠅すたれ
   嵐雪

稲妻やきのふは東けふは西
   其角

文月やひとりはほしき娘の子
   仝

目利してわるい宿とる月見哉
   如行

牛阿る声に鴫立ゆふへかな
   支考

同し灯を切篭にみるは哀なり
   木因

あさかほや其日其日の花の出来
   杉風

鹿の声心に角はなかりけり
   乙由

花すゝき誰にあかれて炭たはら
   任口

秋立やきのふのむかし有のまゝ
   千代尼

あきかせや白木の弓に弦はらん
   去来
 伊丹
によほりと秋の空なる冨士の山
   鬼貫

立出る秋のいふへや風ほろし
   凡兆

ちからなや麻刈あとの秋の風
   越人

      冬の部

火の影や人にて凄き網代守
   言水

冬籠又寄添ん此はしら
   芭蕉

ともかくもならてや雪の枯尾花
   仝

ふとん着て寝たる姿や東山
   嵐雪

はつ雪や人の機嫌は朝のうち
   桃隣

尾頭のこゝろもとなき生海鼠
   去来

炭竈や鹿の見て居る夕煙
   宋阿

爪取てこゝろやさしや年籠
   素龍
 加賀
よはよはと日の行届く枯野かな
   麦水

西ふけば東にたまる落葉哉
   蕪村

長々と川一すしや雪の原
   凡兆

こからしに二日の月の吹ちるか
   荷兮

はつ雪や内に居さふな人は誰
   其角

応々といへとたゝくや雪の門
   去来

いさゝらは雪見にころふ所まて
   芭蕉

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