俳 人
宮崎荊口 此筋・千川・文鳥
大垣藩百石扶持の藩士。本名宮崎太左衛門。東宇。子に此筋・千川・文鳥がいる。 |
荊口 宮崎氏、濃州大垣ノ人、武士、此筋・千川・文鳥三子之父也、東宇ト改ム。
『蕉門諸生全伝』(曰人稿) |
貞享元年(1684年)、『野ざらし紀行』の旅の途上芭蕉が大垣を訪れた時に入門。 |
此時大垣の如行、荊口、大垣の士宮崎氏也。此筋、千川、文鳥の父、後致仕して改東宇、津、戸田侯の臣 入門す。
『芭蕉翁略伝』(湖中編) |
元禄2年(1689年)、『奥の細道』の旅で大垣に到着した芭蕉を荊口父子は揃って出迎えた。 |
駒にたすけられて大垣の庄に入は曽良も伊勢より來り合越人も |
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馬をとばせて如行が家に入集る前川子荊口父子其外したしき人々 |
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日夜とぶらひて蘇生のものにあふがごとく且悦び且いたはる |
元禄4年(1691年)、芭蕉は京都から江戸に向かう途中で大垣に立ち寄り、大垣藩士岡田治右ヱ門邸(千川亭)に泊まった。 |
元禄6年(1693年)4月9日、大垣藩主戸田氏定が日光代参を命じられた。千川はこれに扈従。芭蕉は句を寄せている。 |
城主の君、日光御代参勤させ給ふに扈従ス岡田氏某によす |
篠の露袴にかけししげり哉 |
元禄6年(1693年)4月29日付荊口宛書簡に杉風、曾良の勧めに応じて「水辺のほととぎす」を詠んだ句がある。 |
頃日はほととぎす盛りに鳴きわたりて人々吟詠、草扉におとづれはべりしも、蜀君の何某も旅にて無常をとげたるとこそ申し伝へたれば、なほ亡人が旅懐、草庵にしてうせたることも、ひとしほ悲しみのたよりとなれば、ほととぎすの句も考案すまじき覚悟に候ところ、愁情なぐさめばやと、杉風・曾良、「水辺のほととぎす」とて更にすすむるにまかせて、ふと存じ寄り候句、 |
と申し候に、また同じ心にて、 |
元禄6年(1693年)11月8日付荊口宛書簡に芭蕉の句がある。 |
文鳥子元服之よし目出度存候。愈成長たるべく候。 千川子瘧(おこり)久々御煩、いまほどは御快然珍重存候。 頃日愚句 金屏の松の古さよ冬籠り 鞍つぼに小坊主乗るや大根ひき 寒菊や醴(あまざけ)造る窓の前 素堂菊宴 菊の香や庭に切たれ(る)沓の底 |
元禄12年(1699年)、支考は大垣を訪れ荊口と歌仙。 |
諫鼓鳥鳴や寺地のかけはなち | 荊口 |
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胡麻の日照に荏こらへぬ空 | 支考 |
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鼾かく飛脚は食におこされて | 斜嶺 |
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手をひろけたる後家の身帶 | 遊糸 |
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夜遊も伊勢の山田の火燵時 | 支浪 |
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鹽にもならぬ雪の降なり | 文鳥 |
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元禄13年(1700年)、千川は芭蕉の七回忌で追悼の句を手向けている。 |
ある年の初しくれを凌き予か茅舎 |
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に笠を脱給ひしころ |
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折々に伊吹を見ては冬籠り |
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折々の時雨伊吹ハぬらせとも | 千川 |
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春の夜の人家に語るしはす哉 うぐひすの声の下なる湯殿哉 鶏の尾につられけり初あらし 旅 行 夜の中に木の葉を聞や駕籠の屋ね 物よは(わ)き草の座とりや春の雨 氣をへらす比に成けり冬こもり 雛仕まふ跡のかざりや三日の月 白げしに糸ゆふあそべ弱いどし 紺屋めとしかりなからや更衣 給(タヘ)立に麥の中から皈ル厂 初雪やうゝうといふは老の常 千川か江戸へまかりけるに 酒の事なといましめるとて 今は色時に鰹や鴻の池 白雨に若葉が上の若葉かな 時鳥殿の御影や七ツ起 七夕や戸障子たてる夜半過 藪疇や穂麥にとゝく藤の花 ふるさとに高い杉あり初しぐれ |
講の座や寄合ものハゑひす顔 | 此筋 |
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村時雨中に立たる虹ひとつ | 千川 |
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暖とやな武家のいの子の大根引 | 文鳥 |
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おらか世そ雪霜ハ來す麦田切 | 宮崎氏 | 荊口 |
荊口 乳母とものあそひところや桐のはな 此筋 蔦の葉のおちたところを時雨けり 文鳥 稲妻のきれてのこるか三日の月 |
『藁人形』 |
芦の香や古人を慕水の末 雪の原ぽつこりとなる木かげ哉 蔦の葉の落た処を時雨けり 俎板に寒し薺の青雫 川上へ流るゝやうな柳哉 霜の草これもしほるゝ相手かな 凩にふかれた顔の旅ね哉 よしや君おとゝ子達も散るさくら 荷をゆする店先あつし馬の息 風の端や蚊屋を押へて星祭 地嵐やさすがに是も麥の秋 我足に川の音きくやなき哉 十五夜の主は客よ後の月 しとしととしばらく降て梅の花 松の木や大きな庭の今日の月 |
出しぬいて来れば咲たつ野梅哉 生柴をちよろちよろさせて砧かな 霜畑やとり残されし種茄子 朝起や独花見の壁訴訟 梅が香をしらず深山のあかき猿 夜相撲に又來て例の鬼めかな 伏見船 乘合は夜中を作る螢かな やふ入や里の垣根の一騎打チ 田隣をにくみにくみて晩稲かな 八朔や秋をふるはす風のおと 八朔や秋をふるはす風の音 梅か香にひらくや兒の折手本 通り衆の繩手折レ行寒哉 中ぶとに流れてつらし天の河 懐に寢て歸る子も花見かな 花々のつゝまる音やあをあらし 鯛かこふ漁(いさり)もさすが月見哉 |
うぐひすや啼ては跡をうちしまり 電(いなづま)の切れて残るか三日の月 旅 行 散花や笠にあふぎて玉津嶋 赤(マゝ)はるやむなしき苔を初時雨 顔見せにいそく野良の旅寐哉 物の実のあがらぬ畑や春の草 木からしにいしけらるゝか小僧達 蚊のこゑや床よりおろす書物箱 八専も照りて仕廻や時鳥 膝組て出るや蕗の芽つくつくし |