榎本其角
『いつを昔』(其角編)
十題百句 |
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天 象 |
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春も来ぬ南の誉レ星の道 | 露沾 |
凩に二日の月の吹ちるか | 荷兮 |
旅行 |
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あかあかと日は難面も秋の風 | 翁 |
残れども薫リ分たるあらし哉 | 由之 |
あの雲は稲妻を待たより哉 | 翁 |
地 儀 |
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膳所 |
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残ル雪比良の谷々おぼえけり | 正秀 |
僧 |
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肌のよき石にねむらん花の山 | 路通 |
京 |
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朝桜よし野深しや夕ざくら | 去来 |
美濃に入て |
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山陰や身を養はん瓜畠 | 翁 |
加рノて |
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わせの香や分入ル右はありそうみ | 翁 |
垣根破るその若竹をかきね哉 | 素堂 |
十月や草まだ見ゆる庭の隅 | 尚白 |
楊子に題ス |
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平田 |
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いつの時人に落けん白牡丹 | 李由 |
大津 |
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けしちりてさゞらけもなき匂哉 | 千那 |
おもだかや弓矢たてたる水の花 | 素堂 |
河骨や終にひらかぬ花盛 | 仝 |
嵐雪がゑかきしに、さんのぞみければ |
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蕣は下手のかくさへ哀也 | 翁 |
やどり木や秋にもかれず瓦葺 | 東順 |
遊二園城寺一 |
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からびたる三井の二王や冬木立 | 其角 |
尾陽 |
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腹のたつ人にみせばや池の鴛 | 野水 |
山家へ申つかはし侍る |
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常住をふるまひ給へ鹿の声 | 彫棠 |
艸の葉を落るより飛螢哉 | 翁 |
神 祇 |
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二見の図を拝み侍りて |
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うたがふな潮の花も浦の春 | 翁 |
遷宮の良材ども拝みて |
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大工達の久しき顔や神の秋 | 其角 |
釈 教 |
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明星悟心 |
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我目には師走八日の空寒し | 杉風 |
寄幻吁長老 |
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老僧の笋をかむなみだかな | 其角 |
遊清水寺 |
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人の世やのどかなる日の寺林 | 仝 |
交題百句 |
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感心 次郎といふをつれてつまの夜咄に行 |
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加生つま |
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我子なら共にはやらじ夜の雪 | とめ |
寺前の興もとりあへず |
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少年 |
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小僧ども庭に出けり罌粟坊主 | 角上 |
松嶋行脚の餞別 |
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月花を両の袂の色香哉 | 露沾 |
蛙のからに身を入る声 | 翁 |
辞世 |
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去来妹 |
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もえやすく又消やすき螢哉 | 千子 |
旅 越人を供して木曾の月見し比 |
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俤や姨ひとり泣く月の友 | 翁 |
さらしなには翁の句のみ吟了して |
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尾陽 |
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霧はれて梯は目も塞がれず | 越人 |
加賀 |
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行ぬけて家珍しやさくら麻 | 一笑 |
伏見西運寺興行 |
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はつゆきに人ものほるかふしみ船 | 其角 |
かつしかの真間にて |
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早乙女に足あらはするうれしさよ | 其角 |
古足袋の四十に足をふみ込ぬ | 嵐雪 |
暑き日も樅の木間の夕日かな | 素堂 |
なぐさみも扇くらぶる斗也 | 杉風 |
賞 心 |
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美濃 |
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春の夜の人家に語るしはす哉 | 荊口 |
名月や山も思はず海も見ず | 去来 |
花に風かろくきてふけ酒の泡 | 嵐雪 |
草庵薄酒の興、友五に対す |
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かたつぶり酒の肴に這せけり | 其角 |
名月や居酒のまんと頬かぶり | 仝 |
十月廿日 |
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嵯峨遊吟 |
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さが山やみやこは酒の夷講 | 其角 |
ひろさわ |
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池のつら雲の氷るやあたご山 | 去来 |
のゝみや |
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木がらしに入相の鐘をすゞしめよ | 加生 |
野の宮のやぶ陰にわびしき槌の音しけるを |
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鍬鍛冶に隠士尋ねん畑の霜 | 其角 |
大井里 |
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冬枯の木間のぞかん売屋敷 | 去来 |
かへりに |
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みやこ路や初夜に過たるもみぢ(※「木」+「色」) | 加生 |
湖上吟 十月二日膳所、水楼にて |
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帆かけぶねあれやかた田の冬げしき | 其角 |
ゼゝ |
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此月の時雨を見せよにほの海 | 曲水 |
千那に供(ぐ)して父の古郷、 |
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堅田の寺へとぶらひけるとて |
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婆に逢にかゝる命や勢田の霜 | 其角 |
湖を屋根から見せんむらしぐれ | 尚白 |
霜月下の七日 |
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尚白亭 酔支枕 |
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闇にとて雪待得たる小舟哉 | 尚白 |
橋下(ウラ)寒きともし火の筋 | 加生 |
茶師の蔵梢々にかさなりて | 其角 |
次 |
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ゆきの日や船頭どのの顔の色 | 仝 |
高根のあらしイサゞ(※「魚」+「少」)かたまる | 白 |
つゞれふむ石に踵(キビス)の洗はれて | 生 |
続みなしぐりの撰びにもれ侍りしに、首尾年 |
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ありて、此集の人足にくはゝり侍る |
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鴨啼や弓矢を捨て十余年 | 去来 |
刄バほそらぬ霜の小刀 | 嵐雪 |
はらはらと栗やく柴の円居して | 其角 |
同講の心を 心の月をあらはして鷲の御山の跡を尋ん |
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新月やいつを昔の男山 | 其角 |
鉢たゝき聞にとて、翁のやどり申されしに、 |
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はちたゝきまい(ゐ)らざりければ |
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箒こせまねてもみせん鉢扣 | 去来 |
明けてまい(ゐ)りたれば |
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長嘯の墓もめぐるかはち敲 | 翁 |