俳 書
『初便』(知方編)
元禄15年(1702年)春、朱拙序。 |
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元禄15年(1702年)1月、惟然跋。 |
花は |
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風羅老子 |
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聲よくは諷ふものをさくらちる |
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五老井彼岸さくらのさかりに |
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近江彦根 |
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團子の名に彼岸をわたす櫻哉 | 許六 |
伊賀 |
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うきついて花の香のする男哉 | 猿雖 |
おなしく |
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朝酒のそれはことなる花こゝろ | 土芳 |
さらに劉怜か鋤もたのましなと興して |
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大津僧 |
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醉死ぬ先から花の埋ミけり | 丈艸 |
一季半季の奉公いかにいそかしき浮世にや |
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江戸 |
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請状の隙を一日花見かな | 利牛 |
筑前穂波 |
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出替りのまたしまらすに花見哉 | 助然 |
豊後日田 |
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葉の底に花を殘して麥の雨 | 野紅 |
四方郎とあつまのかたの遊吟あらかしめちき |
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りて |
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京 |
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月花や共に四方のこゝろさし | 風國 |
江戸 |
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十六夜や人も四十は花の老 | 史邦 |
江戸 |
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そろそろと花の盛や女かち | 杉風 |
豊後日田 |
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此あたり山おもしろや花はまた | 里仙 |
十歳の叟百歳の童われらこときは風月の喰ひ |
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たはれ |
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豊後日田 |
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月花の髭男とはいはれたし | 朱拙 |
大津尼 |
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我としのよるとはしらす花盛 | 智月 |
伊賀上野 |
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花有て蝶も徃て來る柴の門 | 卓袋 |
大坂 |
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花に寢てつかまるゝ迄蝶の夢 | 之道 |
豊後日田婦 |
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梅か香やのそきたけれと人の中 | 倫 |
ミノ大垣 |
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梅か香にひらくや兒の折手本 | 千川 |
膳所 |
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梅かゝや明つひろけつ破障子 | 正秀 |
筑前嘉磨 |
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梅かゝや酢蓋は明て有なから | 知方 |
尾州ナコヤ |
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梅かゝのあつまり兼て夜は寒し | 露川 |
鳥は |
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加州金沢 |
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鶯のまたれて啼や日一日 | 北枝 |
大津 |
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鶯やそはに目白も啼たかほ | 乙州 |
ミノ僧 |
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あかりては下り明ては夕雲雀 | 支考 |
三州新城 |
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ない袖はふられぬ野鷄(キシ)の舞羽哉 | 桃先 |
ミノ |
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八専も照りて仕廻や時鳥 | 文鳥 |
江戸 |
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蜀公あとには聲の崩れけり | 孤屋 |
おなしく |
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三日月の影飛けすや時鳥 | 曾良 |
江戸 |
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町中や徃來覺て鶸小雀 | 野坡 |
月は |
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京 |
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朧ても月に何にもあらはこそ | 惟然 |
長崎へ遊吟する比筑後柳川に汐を待て |
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筑前直方 |
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名月や二階の下は何處の人 | 一定 |
草むすふ戸を乘出すや月の客 | 丈艸 |
いさよひや北に黒ミのつき初る | 許六 |
雪は |
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ミノ大垣 |
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初雪やうゝうといふは老の常 | 荊口 |
初雪や塀直さんといひくらし | 野坡 |
近江平田 |
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新宅や大工のとまる夜の雪 | 李由 |
月雪や列(ツレ)は知識に成果ぬ | 丈艸 |
木は |
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江戸 |
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木のまたのあてやかなりし柳かな | 凡兆 |
ミノ |
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我足に川の音きくやなき哉 | 此筋 |
軒口を出るや柳の一せこし | 野坡 |
草は |
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しら川にて |
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若芝にはや寢たくみや高封疆(トント) | 惟然 |
あきかせ |
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七月や地獄の釜も秋の風 | 許六 |
溟々に吟身こちけたるものは白氏の秋より猶 |
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まさりて |
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秋立や草臥者に風のをと | 一定 |
雨は |
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越中 |
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落さふな雲の茂ミや時雨先 | 浪化 |
よ所に名の立唐崎の松 |
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時雨やありし厠の一つ松 | 其角 |
けたものは |
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尾州 |
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朝露や畠によこす鹿の角 | 素覧 |
虫は |
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大津 |
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きりきりす啼や背中を負ふことく | 尚白 |
雨水をすゝりあきてや虫の聲 | 丈艸 |
嘉辰靈霄は |
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京 |
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老の身に青みくはゆる若な哉 | 去來 |
サカ |
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野櫻の花見かてらや雛見舞 | 野明 |
稲妻にしのひくらへよ星の宿 | 野坡 |
衣服は |
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口ほとに五人くらすや衣かへ | 野坡 |
大坂 |
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一日て花に久しき袷かな | 佛兄 |
浪々を訪ふ人に申つかはしける |
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金二兩光り過たり紙子代 | 史邦 |
農事は |
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猪の靜な年や粟はたけ | 丈艸 |
四序の寒暑は |
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餞 別 |
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瓢箪の水の粉ちらす別哉 | 丈艸 |
すゝみする中チを見らるゝ凉み哉 | 野坡 |
火燵からおもへは遠し硯紙 | 沙明 |
聳ものは |
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おらもはや霞む知る人もゝすかち | 惟然 |
四時の終は |
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行秋や梢にかゝる鋤(カンナ)屑 | 丈艸 |
筑前直方にて |
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行秋や花にふくるゝ旅衣 | 去來 |
清女の文にならひて |
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我かほて干鮭賣のさし出けり | 野坡 |