俳 書
『泊船集』(巻之六)
泊船集 巻之六
洛陽 風國撰次 |
春 |
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一とせに一度つまるゝ菜づなかな | 芭蕉 |
畑から頭巾呼なり若菜つみ | 其角 |
若菜つみ敷物やろ(ら)うさん俵 | 去来 |
若草に初音がましや朝鳥 | 野坡 |
踏分る雪が動けばはや若な | 惟然 |
物をいふ友もしら髪の若葉哉 | 風国 |
若菜つむあとは木をわる畠かな | 越人 |
梅 |
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おもふさまあそぶに梅はちらばちれ | 惟然 |
越中井ナミ |
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宮守はわづかに梅のくらしかな | 林紅 |
ぶんご |
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鶯に目白はすうといふ(う)てのく | 朱拙 |
如行亭にて |
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ヲハリ |
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鶯や巣を掛かえ(へ)て寝る覚悟 | 露川 |
柳 |
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ぼんぼりと日のあたりたる柳かな | 野坡 |
大淀なりひらの松はかれて、世つぎの松と里 |
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人のいへり |
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いせ |
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此木かとのぞくや松の若みどり | 団友 |
惟然へ申遣しける |
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木の枝にしばしかゝるやいかのぼり | 嵐雪 |
帰 厂 |
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麦くひし雁とおもへどわかれ哉 | 野水 |
厂の声おぼろおぼろと何百里 | 支考 |
花 |
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花ざかり大腹中になりけらし | 杉風 |
長サキ |
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てつぽうの矢さきにちるや山櫻 | 卯七 |
いが |
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立もどり花見や過す畠行 | 卓岱 |
同 |
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此比やあとさきしらず花に蝶 | 猿雖 |
鳶の輪につれてよらばや山ざくら | 丈草 |
大つ尼 |
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あふさかや花の梢のくるま道 | 智月 |
豊後朱拙此春は登りあはんなどいひ(し)来し |
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けるに |
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もろともに影も蹈べき花の陰 | 風国 |
おぼろ月 |
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弟魯町が故郷へかへるを送りて |
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手をはなつ中に落けりおぼろ月 | 去来 |
園城寺にあそびて |
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石山へまい(ゐ)らばとても朧月 | 風国 |
宵闇もおぼろに出たか出て見よ | 惟然 |
ぶんご日田 |
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庭鳥の声もしまらずおぼろ月 | 紫道 |
ひがん |
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ちくぜんくろさき |
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戸障子を明はなしたる彼岸哉 | 水札 |
重三 |
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ぶんごヒダ |
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雛立て刀自になる也娘の子 | りん |
つぼふかき盃とらん桃の花 | 北枝 |
山ぶきに春を渡して青葉哉 | 支考 |
この句『菊の香』の夏の部ニ書たがえ(へ)侍れば |
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今出しぬ。 |
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夏 |
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奥州今のしら河に出る |
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早苗にもわがいろ黒き日数哉 | 芭蕉 |
郭公 |
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郭公たとへちか道猿すべり | 正秀 |
飛こんだまゝか都の子規 | 丈草 |
横雲の間や山出しの子規 | 去来 |
難波 |
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住よしを忘れてやゐる郭公 | 諷竹 |
越中井波 |
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子規山田の水に色がつく | 浪化 |
鳥 |
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くびたてゝ鵜のむれ登る早瀬哉 | 浪化 |
やうやうと出て鳴ク時かかんこ鳥 | 丈草 |
仰木の里の書懐 |
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おのがねの尼や水鶏の礒の闇 | 丈草 |
さへづりを略して夏の小鳥かな | 浪化 |
ぼたん |
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越中井波 |
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一まづはぼたんくづるゝひる間哉 | 路健 |
曲水の子をいたみて |
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呼声はたえてほたるのさかり哉 | 丈草 |
三州 |
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子をつれて猫も身がるし更衣 | 白雪 |
蝶々のかるみ覚へ(え)よ更衣 | 野坡 |
木曾塚にまうづ |
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南都 |
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こしかたの見たてすゞしき茂り哉 | 玄梅 |
高舘にて |
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江戸 |
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卯の花に兼房見ゆる白毛かな | 曾良 |
五月雨 |
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さみだれの尻をくゝるや稲びかり | 去来 |
夕だち |
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夕立にはしり下るや竹の蟻 | 丈草 |
あつさ |
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石も木も眼にひかるあつさかな | 去来 |
旅 行 |
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かたびらにあたゝまりまつ日の出かな | 丈草 |
玉江にて |
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貰はふ(う)よ玉江の麦の刈仕まひ | 惟然 |
惟然にわかるゝ |
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越中今石動 |
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かぶるゝなけふの細道草いきり | 濫吹 |
惟然にわかるゝ |
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越中ありそ |
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はなれ場や又おちつかぬ菱の花 | 拾貝 |
おなじく |
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おなじく |
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秋ちかき事もわかれのひとつかな | 路青 |
夕凉み |
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つゝ立て帆になる袖や夕凉み | 丈草 |
糺にて |
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みたらしやなかばながるゝ年わすれ | 素堂 |
秋 |
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かゞ小松にて |
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ぬれて行人もお(を)かしや雨の萩 | 芭蕉 |
秋たつや鷹のとや毛のさゝのこり | 浪化 |
長サキ |
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お(を)どり子とちさ(そ)うとらるゝ髭お(を)とこ | 魯町 |
あきかぜ |
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秋風や羽織をまくる小脇指 | 北枝 |
越中高岡 |
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蟷螂や裾はらふ手にすがり付 | 十丈 |
出羽つるが岡 |
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こぼれたる粟穂の雀あれへ飛 | 重行 |
夕ぐれをおもふまゝにもなくうづら | 惟然 |
月 |
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悼遠流の天宥法印 |
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その玉(魂)を羽黒にかへせ法の月 | 芭蕉 |
猶月にしるや美の路の芋の味 | 惟然 |
川ぞひの畠をありく月見哉 | 杉風 |
酒田夜泊 |
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出てみれば雲まで月のけはしさよ | 惟然 |
ならにて |
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菊の香や奈良はいく代の男ぶり | 芭蕉 |
冬 |
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風雲や時雨をくゝる比良おもて | 丈草 |
満山のしぐれつきあふ菴の上 | 仝 |
山がらの里かせぎするしぐれかな | 去来 |
あたゝかに宿は物くふしぐれ哉 | 野坡 |
さが |
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酒になるげんかいなだのしぐれ哉 | 野明 |
金閣寺にて |
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しづかさは赤松石を時雨哉 | 風国 |
越中高岡 |
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水仙やあい(ひ)に時雨のつよう来る | 十丈 |
雪 |
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九重にみなれぬ雪の厚さかな | 去来 |
さかまくやふりつむ嶺の雪の雲 | 丈草 |
ちくぜん黒崎 |
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くせものやとんとないだる宵の雪 | 沙明 |
奥州のある寺に入て |
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薪もわらん宿かせ雪のしづかさよ | 惟然 |
雪雲のとり放したる月夜哉 | 沙明 |
六ツ過の雪のくらみやほの明リ | 浪化 |
有明にふりむきがたき寒さかな | 去来 |
鳴海 |
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手ならひの師匠へやるや大根引 | 知足 |
持病にこもりける比 |
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介病を壱人前する火燵哉 | 去来 |
裏門の竹にひゞくや鉢叩き | 丈草 |
年もはや牛の尾程の便りかな | 去来 |
泊船集梓工へ遣したる後、筐底をさぐりて、 |
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露沾公にて |
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西行の庵もあらん花の庭 | 芭蕉 |
くろさき |
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行くとしや木の葉混りのくだけ炭 | 沙明 |
長崎より來る去來子書中に、小倉にて七夕の |
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ひる、 |
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七夕をよけてやたゝが船躍り |
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たゝは漁夫の女、船躍は雨乞なり。 |
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七夕は黒崎、沙明にて |
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うちつけに星待つ顔や浦の宿 |
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長さき盆会に |
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見し人も今は孫子や墓参り |
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同所諏訪大明神にまうでゝ |
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貴さを京でかたるもすはの月 |
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丈草子へも御つたへなさるべく候。 |
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八月卅日 |
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去来 |
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風国丈 |
元禄十一戊寅年 十一月吉日 |