蕉　門


中村史邦

中村荒右衛門。尾張徳川家寺尾土佐守直竜の侍医。後、京都で仙洞御所に仕えた。生没年不詳。

尾張寺尾土佐守、醫中村春庵。 『蕉門諸生全伝』（遠藤曰人稿）

元禄２年（１６８９年）、寺尾土佐守直龍の看護役内藤丈草を芭蕉に紹介する。 　元禄３年（１６９０年）１２月、芭蕉は凡兆・去来・乙州・史邦ら門人を伴ない上御霊神社に参詣して「年忘歌仙」を奉納した。 　元禄４年（１６９１年）４月２５日、丈草は史邦と共に落柿舎滞在中の芭蕉を訪ねている。

史邦・丈艸被訪。

芽出しより二葉に茂る柿の実	史邦
途中吟
杜宇啼や榎も梅櫻	丈艸

『嵯峨日記』

元禄５年（１６９２年）秋、仙洞御所の仕えを辞す。

侍の身を露にして月みかな 『芭蕉庵小文庫』

元禄６年（１６９３年）、江戸に出る。惟然は石山まで送っている。

牢人して東武へ下る日、粟田口にて すゞかけを着ぬばかりなる暑かな 『芭蕉庵小文庫』

東武におもむきし頃木曾塚に各吟会し
て離別の情を吐く事あり
涼風に蓮の飯喰ふ別かな	史邦
別史邦吟士
起伏にたばふ紙帳も破れぬべし	素牛
猶名残を惜みて行々
石山のほとり一夜を明し
行水や戸板の上の涼しさに	仝
芭蕉菴に宿して
蕣や夜は明きりし空の色	史邦
	『藤の実』

深川の庵に宿して
ばせを（う）葉や風なきうちの朝凉	史邦
	『續猿蓑』

元禄６年（１６９３年）７月、史邦・芭蕉・岱水で三吟歌仙。

三　吟
帷子は日々にすさまじ鵙の声	史邦
籾壱舛（升）稲のこき賃	ばせを
蓼の穂に醤（ひしほ）のかびをかき分て	岱水

『芭蕉庵小文庫』

元禄９年（１６９６年）３月、『芭蕉庵小文庫』刊。 　元禄１３年（１７００年）、史邦は芭蕉庵の翁七回忌で追悼の句を手向けている。

こからしの身は七とせや像の皺 『冬かつら』

愛知県犬山市の尾張冨士大宮浅間神社に史邦の句碑がある。



菜の花や小屋より出る渡守

史邦の句

紅梅の九尺ばかりや釣簾＜コス＞の前 『己が光』 初冬は蒼人艸の秡くれ 『俳諧八重桜集』 河はあせ山は枯木の涙かな 『後の旅』 稲といふ名も気がゝりやいもが門 『ありそ海・となみ山』 あつらへの天氣なりけりはな曇 『鳥のみち』 陽炎や朝日てらつく花の中 　　　遠州にて 鶉なく大名地野はうづこにや 初午や小草に人のぞよぞよと 『続有磯海』 晝かすみ鱠くふへき腹こゝろ 『けふの昔』 桐の葉に息ざしぬるき螢かな 『旅袋』 十六夜や人も四十は花の老 　　　浪々を訪ふ人に申つかはしける 金二兩光り過たり紙子代 『初便』 くらかりに覆盆子喰けり草枕 『藁人形』 大どしや数（す）たび蹴ちらす馬の沓 『渡鳥集』 侍も露になりたる月み哉 『三日月日記』 赤人の名はつかれたりはつ霞 『芭蕉盥』 はる雨や田簔の島鯲（どぜう）うり 『おもかげ集』 廣澤やひとりしくるゝ沼太郎 『芭蕉庵再興集』 おくり火やうしろさがりの袴ごし 『加佐里那止』 やせ馬の鞍つぼ暑し菊一把 『岱表紙』 なの花や小家より出るわたし守 『与州播州雑詠』

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