俳 書
『俳諧別座敷』(子珊編)
元禄7年(1694年)5月、深川の子珊亭で巻かれた芭蕉送別五吟歌仙の発句「紫陽花や藪を小庭の別座敷」による。 |
紫陽花や藪を小庭の別座敷 | 芭蕉 |
よき雨あひに作る茶俵 | 子珊 |
朔(ついたち)に鯛の子売の声聞て | 杉風 |
出駕籠の相手誘ふ起々 | 桃隣 |
贈桃隣新宅自画自讃 |
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寒からぬ露や牡丹の花の蜜 | 芭蕉 |
田植迄水茶屋するか角田川 | 其角 |
竹の子や児の齦<ハグキ>のうつくしき | 嵐雪 |
鹿の子のあどなひ(い)顔や山畠 | 桃隣 |
郭 公 |
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挑灯(てうちん)の空に詮なし時鳥 | 杉風 |
深川 |
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明方や水買に出て時鳥 | 滄波 |
橘 |
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駿河路や花橘も茶の匂ひ | 芭蕉 |
寒キ程案じぬ夏の別れ哉 | 野坡 |
野はずれや扇かざして立どまる | 利牛 |
一頻日は蔭<カゲレ>かし夏の坂 | 岱水 |
箱根迄送りて |
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ふつと出て関より帰ル五月雨 | 曾良 |
夜半鐘声まぢかく、蚊屋と紙のとばりにさうじを隔て、窓間に臥り。日たけて起侍るに、かゆは煮すぐしたれば、杉のはしかたかたづゝにてすゝりぬ。「今年猶、後のさつきを郭公知ておこたる夜比にや初音聞侍ず」とかこちて、此比の愚詠を、 むら雨やかゝる蓬のまろねにも たへて待るゝほとゝぎすかな と吟じつれば、折のよきにや、めでくつがへりて、「ぬしも今宵句をさぐり得たり」と 木隠れて茶つみも聞や時鳥 これなん佳境に遊びて、奇正の間をあゆめる作とはしられにけり。予も 青雲や舟ながしやるほとゝぎす 「かうも在べきや」など、俳諧にくらす日も在けり。又、 卯の花やくらき柳の及ごし の佳句は、「柳暗花明なり」といへる『碧巖』に似かよひ侍を、「夏の小雨をいそぐ沢蟹」と、卒爾に脇をさへづる折も有つゝ、いつか十日もとまり侍けるにも今かう旅と旅とに袖を離れ、遠岸蒼々たる川のほとりにひとりたてり。 |