蕉 門
高野一栄
最上川のらんと、大石田と云所に日和を待。爰に古き誹諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ、芦角一声の心をやはらげ、此道にさぐりあしゝて、新古ふた道にふみまよふといへども、みちしるべする人しなければとわりなき一巻残しぬ。このたびの風流爰に至れり。
『奥の細道』 |
さみ堂礼遠あつめてすゝしもかミ川 | 芭蕉 | |
岸にほたるを繋ぐ舟杭 | 一栄 | |
爪ばたけいざよふ空に影待ちて | 曽良 | |
里をむかひに桑のほそミち | 川水 | |
うしのこにこゝろなくさむゆふまくれ | 一栄 | |
水雲重しふところの吟 | 芭蕉 |
6月1日、芭蕉は大石田から新庄の渋谷甚兵衛風流亭を訪ね、2泊している。 |
同年9月14日、芭蕉は伊勢神宮に参詣し、翌日小幡に向う。そこで偶然、伊勢参りの一栄と出会った。 |
○十五日 卯ノ刻味右衛門宅ヲ立。翁、路通、中ノ郷迄被送。高野一栄道ニテ逢。小幡ニ至テ朝飯ス。至津、宿申二下ル。
『曽良随行日記』 |
一栄というのは盲人で名字は高橋通称を平四郎というた。川水は土屋某というて屋号をアカシヤという土地の旧家であった。一栄の宅というのは、最上川に沿うた当時は茂った芦の中にあった。二人とも檀林のまね位しておったのが、芭蕉を迎えて始めて悟入したものらしい。など種々言ひ伝えられた事がある。アカシヤは一家滅絶して今は何の跡も残っておらぬそうである。 |
若水や竜の都も千尋繩 しられけり鐵西行の秋の暮 鳥海の雪よりおろせほとゝぎす |