芭蕉の句
鎌倉を生て出けむ初鰹
詩哥に名所を用る事たやすからじ。「かまくらの初鰹」は、支考が東より帰けるとき、かゝる事ありとて見せ申されしを、「生て出るといふに鎌倉の五文字、又その外あるべくとも承わ(は)らず」と申したれば、うれ敷きゝ侍るとて阿叟もにくみ申されしが、みづからも徼幸にいひ明しぬらむ。 |
この句は私の好きな句だ。鎌倉で捕れたとき、そのはつ松魚はいきいきしていた。江戸へは早荷でとどけられたろう。若狭の鰈を京都へとどけるのに、若狭街道を走って搬んだように。 しかしこの句は、江戸で作られた句にちがいない。初松魚を喜ぶ江戸の人々を代表して詠ったような句だ。「鎌倉をいきて出てけむ」は芭蕉の言葉であると同時に江戸の人々の言葉である。
『句碑をたずねて』(東海道) |
青森県青森市の合浦公園 神奈川県横浜市の富塚八幡宮に句碑がある。 |
神奈川県鎌倉市の鎌倉文学館に句碑がある。 |