旅のあれこれ文 学


『拾遺和歌集』

 『古今和歌集』『後撰和歌集』に次ぐ第三番目の勅撰和歌集で、「三代集」の最後。

  拾遺和歌集第一

    春

題知らず
よみ人知らず
桜狩雨は降りきぬおなじくは濡るとも花の影に隠れむ

  拾遺和歌集第六

    別

延喜御時月次御屏風に
相坂の関の清水に影見えて今や引くらん望月の駒

信濃の国に下りける人のもとに遣はしける
貫之
月影は飽かず見るとも更科の山の麓に長居すな君

陸奥国の白河関越え侍けるに
平兼盛
たよりあらばいかで宮こへ告げやらむ今日白河の関は越えぬと

流され侍て後、言ひを(お)こせて侍ける
君が住む宿のこずゑのゆくゆくと隠るゝまでにかへりみしはや

(もろこし)にて
天飛ぶや雁の使にいつしかも奈良の都に言でてやらむ

  拾遺和歌集第八

    雑 上

菅原の大臣かうぶりし侍ける夜、母の詠み侍
ける

久方の月の桂も折る許(ばかり)家の風をも吹かせてし哉

   (もろこし)へ遣はしける時詠める

夕されば衣手寒しわぎもこが解き洗ひ衣行(ゆき)てはや着む

   流され侍ける道にて詠み侍ける
天つ星道も宿(やどり)も有ながら空に浮きてもおもほゆる哉

  拾遺和歌集第七

    物 名

さはこのみゆ
よみ人知らず
飽かずして別れし人の住む里はさはこの見ゆる山のあなたか

  拾遺和歌集第十

    神楽歌

元輔
万世(よろづよ)をみかみの山のひゞくには野洲河の水澄みぞあひにける

  拾遺和歌集第十一

    恋 一

天徳御時歌合
壬生忠見
恋すてふ我が名はまだき立にけり人知れずこそ思そめしか
平兼盛
しのぶれど色に出でにけり我が恋はものや思と人の問ふまで

  拾遺和歌集第十二

    恋 二

権中納言敦忠
逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物も思はざりけり

元良の親王
わびぬれば今はた同じ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思

  拾遺和歌集第十三

    恋 三

人 麿
蘆引の山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

  拾遺和歌集第十四

    恋 四

よみ人知らず
伊香保のや伊香保の沼のいかにして恋しき人を今一目見む

玉河にさらす手作りさらさらに昔の人の恋しきやなぞ

入道摂政まかりたりけるに、門を遅く開けけ
れば、立ちわづらひぬと言ひ入れて侍ければ
小右大将道綱母
嘆つゝ独(ひとり)(ぬ)る夜のあくる間はいかに久しき物とかは知る

  拾遺和歌集第十五

    恋 五

もの言ひ侍ける女の後につれなく侍て、さら
に逢はず侍ければ
一条摂政
あはれとも言ふべき人は思ほえで身のいたづらに成ぬべき哉

  拾遺和歌集第十六

    雑 春

流され侍ける時、家の梅の花を見侍て
東風吹かばにほひを(お)こせよ梅花主(あるじ)なしとて春を忘るな

  拾遺和歌集第十七

    雑 秋

亭子院、大井河に御幸ありて、行幸もありぬ
べき所也と仰せ給ふに、事の由奏せんと申て
小一条太政大臣
小倉山峰のもみぢ葉心あらば今一度の行幸待たなん

  拾遺和歌集第二十

    哀 傷

性空上人のもとに、よみてつかはしける
雅致女式部
(くらき)より暗(くらき)道にぞ入ぬべき遥に照せ山の端の月

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