金葉和歌集第一 春部 院北面にて橋上ノ藤花といふ事をよめる
大夫典侍
色かへぬ松によそへてあづまぢの常盤の橋にかゝる藤波金葉和歌集第三 秋部 師賢朝臣の梅津に人々まかりて、田家ノ秋風と いへることをよめる
大納言経信
返し夕されば門田の稲葉を(お)とづれてあしのまろやに秋風ぞふく萩をよめる
大宰大弐長実
しらすげの真野の萩原つゆながら折りつる袖ぞ人なとがめそ堀川院御時、御前にて各題を探りて歌つか うまつりけるに、薄をとりてつかまつれる
源俊頼朝臣
うずら鳴く真野の入江のはまかぜに尾花なみよる秋のゆふぐれ金葉和歌集第四 冬部 関路千鳥といへることをよめる
源兼昌
淡路島かよふちどりのなくこゑにいく夜ねざめぬ須磨の関守金葉和歌集第八 恋部 下 公任卿家にて、紅葉、天の橋立、恋と三つの 題を人々によませけるに、遅くまかりて人々 みな書くほどになりければ、三つの題を一つ によめる歌
藤原範永朝臣
恋ひわたる人に見せばや松の葉のしたもみぢする天の橋立人のもとにて、女房の長き髪をうち出だして 見せければよめる
藤原顕綱朝臣
人しれず思ふ心をかなへなんかみあらはれて見えぬとならば堀河院御時の艶書合(けさうぶみあはせ)によめる
中納言俊忠
人しれぬ思ひありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ返し
一宮紀伊
音に聞く高師の浦のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ金葉和歌集第九 雑部 上 大峰にて思ひがけず桜の花を見てよめる
僧正行尊
もろともにあはれと思へ山ざくら花よりほかに知る人もなし隆家卿太宰帥にふたゝびなりて、のちのたび 香椎社に參りたりけるに、神主ことのもとと 杉の葉をとりて帥の冠(かうぶ)りに挿すとてよめる
神主大膳武忠
ちはやぶる香椎の宮の杉の葉をふたゝびかざすわが君ぞきみ宇治前太政大臣布引の滝見にまかりける 供にまかりてよめる
大納言経信
白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろに落つる激(たぎ)つ瀬
読人不知
天の川これや流れのすゑならむ空よりおつる布引の滝和泉式部保昌に具して丹後国に侍りける頃都 に歌合侍けるに、小式部内侍歌よみにとられ て侍けるを、定頼卿局のかたに詣で来て、歌 はいかゞせさせ給、丹後へ人はつかはしてけ んや、使詣で来ずや、いかに心もとなくおぼ すらん、などたはぶれて立ちけるを引きとゞ めてよめる
小式部内侍
大江山いくのの道のとを(ほ)ければふみもまだみず天の橋立金葉和歌集第十 雑部 下 範国朝臣に具して伊予国にまかりたりけるに、 正月より三四月までいかにも雨の降らざりけ れば、苗代もえせで騒ぎければ、よろづに祈 りけれど叶はで堪えがたかりければ、守、能 因を歌よみて一宮に参らせて祈れ、と申しけ れば参りてよめる
能因法師
天の川苗代水にせきくだせあま下ります神ならば神神感ありて大雨降りて、三日三夜をやまざるよし家の集に見え たり 補遺歌 百首歌の中に子日(ねのひ)の心をよめる
大蔵卿匡房
春霞立ちかくせども姫小松ひくまの野べに我は来にけり |