与謝野晶子の歌碑
温海温泉
与謝野晶子歌集白櫻集よりの1首である。 昭和10年6月30日、温海温泉を訪れ、名物朝市風景を詠まれたものである。他にも「長岡に今朝雨を聞き夕べには出羽の温海の吊橋を行く」等、10首ほど詠まれている。(下手の橋は当時吊橋であった) 平子恭子編著『年表作歌読本与謝野晶子』によれば、与謝野晶子は6月28日に上野を発ち、長岡に2泊、30日出雲崎に1泊、温海温泉を訪れたのは7月1日で、海老屋に1泊して翌日帰京している。 |
長岡に今朝雨を聞き夕には出羽の温海の吊橋を行く |
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吊橋を吹きてはかなし庄内も近きさかひの山の夕風 |
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朝市の初まりぬとて起されぬほととぎすなど聞くべき時刻 |
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さみだれの出羽の谷間の朝市に傘して賣るはおほむね女 |
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我が借れる湯治座敷も窓あれど暗しいではの山のさみだれ |
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二日して湯の香混りの五月雨に馴れし出羽の温海山かな |
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ほととぎす通ふに足らん御空をば上に残せる出羽の夏山 |
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出羽とて北の空のみ明るきも慣ひ變れる山の湯の宿 |
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湯場の屋根濡れて光れば岩燕岩と見なして遊ぶさみだれ |
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温海の湯色を變ふてふ浴む身に随ふならば悲しからまし |
短歌雑誌『冬柏』第6巻・第7号(昭和10年7月発行初出) |