私は山深く分け入つて、鬼怒沼山に向ふのである。間もなく小坂となつた。喬木天を封じ、根笹地を封じて、深山らしい気持がする。左手の傾斜地の下に、蓼の湖が見える。小さな沼である。峠を越して、少しゆくと、刈込湖が現はれた。南北二三町、東西四五町の湖水である。南岸の小路を行くと、湖水の幅が二三十間になると思ふ間もなく、切込湖が現はれた。これは刈込湖より少し小さい。この二湖は四面直に高い山に圧せられて、物凄いほど静かである。
「裏日光の山水」(川俣温泉) |
南側にある三ツ岳の噴出物が沢をせきとめてできたのが切込湖、刈込湖です。 むかしこのあたりに大蛇が住みついて、村人たちを苦しめているという話を聞いた日光開山の祖勝道上人はさっそく大蛇征伐にむかい、そして大蛇を斬り殺して湖に沈めたといいます。名前の由来には、こんな伝説が残っています。 この両湖はつながっていますが、不思議なことに水の流れ出る沢はありません。多分地下に吸いこまれていると思われます。 |