B放送での仕事が思いがけず早く終わったので、四ツ谷駅前の新道にある中村さんの店に寄ってみた。中村さんは畳屋の主人である。店は小さいが裏手に大きな仕事場を持っている。 |
土手には桜の木が植えてあったが、この土手が一塁側とネット裏スタンドになった。つまり三塁側のチームはいつも陽に灼かれていなければならないが、一塁側のチームはすくなくとも自軍の攻撃中は桜の土手のつくる日蔭の下で汗を拭くことができる。あの夏の一日、三塁側に陣取った新道少年野球団はきっと死ぬほど辛かったろう。 |
中村畳店から、わたしは外堀通りを市ケ谷へ向かった。金網越しに野球場を見ると、木枯らしに吹き上げられた砂煙がグラウンドを走り回っている。振り返って西を見ると、大会社の巨きなビルが野球場に覆いかぶさるように立っていた。この十何年かのうちに、ここには西日がささなくなってしまったようである。 |