『田舎教師』に登場するお種さんは、主人公の勤める学校近くの料理屋「小川屋」の娘さんで、主人公清三が着任してから亡くなるまでの間、弁当を運ぶなど清三に接する機会が多かった人。 |
弥勒には小川屋という料理屋があって、学校の教員が宴会をしたり飲み食いに行ったりするということをかねて聞いていた。当分はその料理屋で賄いもしてくれるし、夜具も貸してくれるとも聞いた。そこにはお種というきれいな評判な娘もいるという。清三はあたりに人がいなかったのをさいわい、通りがかりの足をとどめて、低い垣から庭をのぞいてみた。庭には松が二三本、桜の葉になったのが一二本、障子の黒いのがことにきわだって眼についた。 |