これまでの温泉
湯河原温泉「島崎藤村ゆかりの宿伊藤屋」
潮 音(しおのね) わきてながるゝやほじおの そこにいざよふうみの琴 しらべもふかしもゝかはの よろづのなみをよびあつめ ときみちくればうらゝかに とほくきこゆるはるのしほのね |
島崎藤村は、晩年の大作「夜明け前」を昭和3年に着手、10年に完成した。執筆と発表の合間に静養と思索と清談を兼ねて藤村の亡くなる18年まで夫妻は、この伊藤屋を訪れて宿泊することを楽しみとされ、来館の記念に「若菜集」所収の自作の詩「潮音」を染筆して当館の館主に贈られた。 この詩碑は本館庭園の自然石を掘り起こし直筆「潮音」をそのまま刻んだものである。簡素を愛し謙虚に生き青春の心情を持ち続けた詩人藤村を偲ぶにふさわしい園内の静閑な一隅を選び建碑することにした。
館主識 |
藤村が初めて湯河原温泉を訪れたのは昭和3年(1928)のこと、宿は1,2月回替わったそうだが、「伊藤屋」に落ち着くことになったのは、江戸時代は名主だったという家格と、それにふさわしい旧家の佇まい、また主人が湯河原町の町長を務めたことがあるという見識を重んじてのことだった。以後、藤村が没する昭和18年(1943)まで15年間、年4回、湯河原での静養は続くのであった。
福田国士『文豪が愛し、名作が生まれた温泉宿』 |