汽車から降りた五人は、予期に反して、この街の汚いのと淋しいのに驚きながら、平戸行きの汽船を尋ねて、海岸の方へ足を運んだ。石の橋を渡って直ぐの回漕店で聞いて見ると、若い者は港の彼方を眺めて、『ああ、最早出てしまいました』という。五人は仕方なしに、明日の船を待って宿屋に投じた。
「五足の靴」 |
「宿屋」は「京屋旅館」。京町児童公園の前にあったそうだ。
夜店公園にも「五足の靴文学碑」があった。

明治40年夏、与謝野寛、平野万里、吉井勇、木下杢太郎、北原白秋の5人の歌詩人が九州旅行の途中、佐世保を訪れた。その旅行記が「五足の靴」である。5人は佐世保で1泊し、この地に夜店がたち並ぶ様子を見て、与謝野寛(鉄幹)が即興詩を口吟した。
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ランプの明かり、カンテラの
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灯かげ煙れるせりうりの
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夜店の中に、一段と
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聲はりあぐる瀬戸物屋。
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「早來い、早來い、品物は
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みんな廉か。」といそがしく
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左のふときてのひらを
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握りこぶしに打叩く
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「この花いけは有田焼、
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買はっせ、買はっせ、そら貮圓。
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廉か。」と呼べど、群集は
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冷然として澆り見る。
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「貮圓、壹圓五十錢、
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七十五錢、四十錢、
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ああ、負けましょ、二十錢。」
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赤き襷を汗ばしる。
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わが賣る品のあたひをば
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恥づる色なく、おのれから
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下げて手を打つ、あはれなる
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佐世保の街の瀬戸物産。
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更にあはれむ。汝が妻は
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死にか別れし、みそかをと
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はたや逃げたる。三十の
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男ざかりのやもめずみ。
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後ろを見れば、竹たてて
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夜露に吊すハンモック
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眠りてありぬ、青白き
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五才ばかりの娘の兒。
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明治四十年八月五日
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与謝野鉄幹
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