血のいろにゆがめる月は 今宵また桜をのぼり |
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患者たち廊のはづれに 凶事の兆を云へり |
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木がくれのあやなき闇を 声細くいゆきかへりて |
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熱植ゑし黒き綿羊 その姿いともあやしき |
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月しろは鉛糖のごと 柱列の廊をわたれば |
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コカインの白きかをりを いそがしくよぎる医師あり |
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しかもあれ春のをとめら なべて且つ耐えほゝゑみて |
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水銀の目盛を数へ 玲瓏の氷を割きぬ |
学校の志望は捨てん木々のみどり弱きまなこにしみるころかな |
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ぼろぼろに赤き咽喉してかなしくもまた病む父といさかふことか |
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今日もまたこの青白き沈黙の波にひたりてひとりかやめり |
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十秒の碧きひかりの去りたればかなしくわれはまた窓に向く |
学校の図書庫の裏の秋の草 |
黄なる花咲きし |
今も名知らず |