小林一茶



『与州播州雑詠』

 寛政9年(1797年)より同11年まで西国行脚中の一茶が『俳諧七部集』の蕉門俳人や蕪村の句等を書き留めたもの。

目には青葉山時鳥初かつを
   素堂

雪の日や船頭どのゝ顔の色
   キ角

初雪や先草履にて隣まで
   ろ通

精出して摘とも見へ(え)ぬわかな哉
   野水

若なつむ跡は薪(木)を割る畠哉
   越人

暁のつるべにあがるつわ(ば)きかな
   荷兮

うごくとも見へで(えで)畠うつ麓哉
   去来

この比は小粒になりぬ五月雨
   尚白

鴨の巣の見へ(え)たり或は隠れたり
   ろ通
  カゞ
火ともしていく日になりぬ冬椿
   一笑



負まじき角力を寝ものがたり哉
   蕪村

大[と]この糞ひりおはすかれの哉
   同

(たたづむ)はなを(ほ)ふる雪の夜道哉
   几董

朝がすみ天守の雨戸聞へ(え)けり
   一茶

   短尺控

墨染のにほひ寂敷袂かな
   重厚

人を待人にも似たり門すゞみ
   百池

何事ぞ花見る人の長刀
   去来

おもひ立よしのゝ人も月見哉
   野坡

一本をぐるりぐるりと花見哉
   浪化

咲からに見らるゝ(るからに)花のちるからに
   鬼つら

ある僧のきらひし花の都哉
   凡兆

真先に見し枝ならんちる桜
   丈草

ぬれ色や大かはらけの初日影
   任口

そなたにも女房呼ばせん水祝
   き角

十八丁おくに里あり梅の花
   乙由

飯くふ主のめぐる柳哉
   百明

紅梅に青く横たふ筧哉
   柳居

なの花や小家より出るわたし守
   史邦

なの花や戸口見つけてまはり道
   嵐雪

有明や光おさまるもゝの花
   北枝

馬の耳すぼめて寒し梨の花
   支考

人の親の烏追けり雀の子
   鬼貫

田楽や仰向く口へ舞雲雀
   許六

子や待んあまり雲雀の高上り
   杉風

かへるとて集る雁よ海のはた
   去来

夜通しに何を帰雁のいそぎ哉
   浪化

ふらふらと帰りかねてや小田の雁
   涼菟

きろきろと烏見て居てかへる雁
   朱拙

ぬり立の畔をゆり出田にし哉
   十丈

梟の声ぶ性(不精)さよおぼろ月
   露川

やぶ入やうどんうつとてかりぎ哉
   支考

残る雪比良の谷々おぼへ(え)けり
   正秀

春風に帯ゆるみたる寝顔哉
   越人

清水の上から出たり春の月
   許六

初午やけふかけぬけの山屋敷
   左明

何を見てひがんの夕日人だかり
   鬼つら

春雨のけふばかりとて降にけり
   鬼貫

   ○

時鳥跡の祭に雨がふる
   重行

時鳥顔の出されぬ格子哉
   野坡

鳴やうに鶯はいる茂り哉
   土芳

鴨の巣の見へ(え)たり或は隠れたり
   ろ通

蚊の一来初る宵のくもり哉
   猿雖

鹿の子のあどない顔や山畠
   桃隣

痩ぎすな男に黒き袷哉
   木因

一とろに袷と成や黒木売
   き角

短夜[や]止んとしては橋の音
   既白

ほうそする児も見へ(え)けり麦の秋
   浪化

幟見や染た紺屋も立どまり
   柳居

八兵衛や泣ざなるまい虎が雨
   き角

夏山や庵見かけて二曲(まがり)
   曲水

生月の腹をかゝへて田植哉
   許六

間々に顔見合せて田うえ(ゑ)
   乙由

汁鍋に笠の雫や早苗とり
   き角

ホコに乗る人の勢(きほひ)も都哉
   き角

野社にタイコ打けり雲の峰
   北枝

ひやひやと壁をふまえて昼哉
   翁

負た子に髪なぶらるる暑哉
   園女

夕涼みよくも男にむまれける
   き角

河原迄瘧(おこり)まぎれに御祓(みそぎ)[かな]
   失兮
   (荷)
わか葉吹さらさらさらと雨ながら
   由せん
   惟然
泥足の京でかはくやあやめ売
   乙由

河骨の一華干(ひ)あがる流哉
   同

名月や又逢ふ顔(人)宵の人(顔)
   鳥酔

岩はなや爰にもひとり月の客
   去来

玉祭皆若い衆につかはるゝ
   野坡

玉棚のおくなつかしや親の顔
   去来

投られて先月を見る角力哉
   鳥酔

長き夜を旅くたびれに寝にけり
   去来

大きなる家ほど秋の夕哉
   許六

気をつけて見るほど秋の夕哉
   許六

山萩の添へ竹はなし去ながら
   言水

垣越に引導のぞくばせを哉
   北枝

末枯(うらがれ)や馬も餅くふうつの山
   き角

虫よ虫鳴て因果が尽るなら
   乙州

虫どもの哀を尽す夜半哉
   句空

遠山やとんぼつい行ついもどる
   秋の坊

朝嵐天窓の上を渡り鳥
   去来

アトアトは思案もなしに下りる雁
   インスイ
   (猿雖)
又来たと烏おもふや小田の雁
   支考

物おもひ物おもひうづら哉
   支考

初雪や塀直んと云くらし
   野坡

初雪に此小便は何やつぞ
   き角

応々といへぢ叩くや雪の門
   去来

此比の垣のゆひめや初時雨
   野坡

逢坂で行違ひけり初時雨
   諷竹

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