加藤暁台

『幽蘭集』(暁台編)

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寛政11年(1799年)、『幽蘭集』(暁台編)。臥央校。士朗序。

幽蘭集 一

   笠は長途の雨にほころひ紙衣は
   とまりとまりのあらしにもめたり侘
   つくしたるわひ人我さへあはれに
   覚えけるむかし狂哥の才子此国に
   たどりし事をふ図思ひ出て申侍る

狂句凩の身ハ竹斎に似たるかな
   芭蕉

たそやとはしたる笠の山茶花
   野水

有明の主水に酒屋作らせて
   荷兮

かしらの露をふるふ赤馬
   重五

朝鮮のほそり薄のに匂ひなき
   杜国

日のちりちりに野に米を刈
   正平



海くれて鴨の聲ほのかに白し
   はせを

串に鯨を焙る觴
   桐葉



   貞享二年三月廿七

何とはなしに何やら床しすみれ草
   芭蕉

編かさ敷て蛙聞ゐる
   叩端

田螺わる磯のわらへの暖かに
   桐葉

公家に宿かす竹の中道
   芭蕉



花咲て七日鶴みるふもとかな
   芭蕉

懼て蛙のわたる細橋
   清風

足踏木を春また氷る筏して
   挙白

米一升をはかる関の戸
   曽良

名月を隣はねたる草枕
   コ斎

枝みくるしき桐の葉を刈
   其角



      貞亨四卯年

星崎の闇をみよとや鳴ちとり
   芭蕉

舟調ふる蜑のうつミ火
   安信

築山のなたれに梅を植かけて
   自笑

あそふ子猫の春に逢つゝ
   知足

鷽の聲夜をまつ月のほのか也
   ボク言

をかのこなたの野へ青き風
   如風



   鳴海寺島氏ボク言亭に飛井亜相の
   御詠草のかゝり侍しを和す

京までハまたなかそらや雪の雲   芭蕉

ちとりしハらく此うミの月
   ボク言

小蛤ふめとたまらぬ袖ひちて
   知足

酒氣さむれハうらなしの風
   如風

ひき捨し琵琶の袋を打はらひ
   安信

僕ハおくれて牛いそくなり
   自笑



貞亨四年十一月廿四日

   みしふくありし熱田の御社
         ふたゝひまふてゝ

磨直すかゝみも清し雪のはな
   芭蕉

石しく庭のさむきあかつき
   桐葉



貞亨五年

何の木の花とハしらす匂ひかな
   芭蕉

こゑに朝日をふくむ鶯
   益光

春ふかき柴の橋守雪はきて
   又玄

二葉のすみれ御幸待けり
   雪庵



箱根越す人もあるらし今朝の雪
   はせを

舟に焼火を入るまつの葉
   聴雪

五六町布網干る家見えて
   如行

あふこむれつゝ芦の中行
   野水

明るまて戻らぬ月の酒きけむ
   越人

蔀々を上る盆の夜
   荷兮



かきつはた我に発句の思ひあり
   芭蕉

麦穂波よるうるほひのずゑ
   知足

二つして笠するからす夕くれて
   桐葉

かへさに袖をもれし名所記
   叩端

住なれて月まつ程の浦つたひ
   ボク言

それとはかりの秋の風音
   自笑



幽蘭集 二

      奈須余瀬翠桃亭をたつねて

秣負ふ人をしをりの夏野かな
   はせを

青きいちこをこほす椎の葉
   翠桃

むら雨に市の狩屋を吹とりて
   ソ良



風流のはしめや奥の田植うた
   はせを

いちこを折て我まうけ草
   等躬

水せきて昼ねの石や直すらん
   ソ良



隠れ家や目たゝぬ花を軒の栗
   はせを

まれにほたるのとまる露くさ
   栗斎

切崩す山の井の名ハ有ふれて
   等躬

畔つたひする石の棚橋
   ソ良

たはねたる真柴に月の暮かゝり
   等雲

秋しりのかほの矮屋はなれす
   須竿



さミたれをあつめて早し最上川
   はせを

蛍をつなく岸に船杭
   一栄

爪はたけいさよふ空に影待て
   ソ良

里をむかふに桑の細道
   川水

牛の子に心なくさむ夕まくれ
   栄

雨雲重しふところの吟
   蕉



有難や雪をかをらす風の音
   はせを

住ほと人の結ふ夏草
   露丸

川舟の綱に蛍を引立て
   曽良

鵜の飛跡にみゆる三日月
   釣雪



あつミ山やふく浦かけて夕涼ミ
   はせを

海松かる磯にたゝむ帆莚
   不玉

月出は関屋をからむ酒持て
   ソ良

土もの竈のけふる秋風
   蕉



めつらしや山を出羽のはつなつひ
   はせを

せミに車のおとそふる井戸
   重行

絹はたのくれいそかしう梭を打て
   ソ良

閏弥生の末の三ケ月
   呂丸



残暑暫手ことに料れ瓜なすひ
   はせを

短かさまたて秋の日の影
   一泉



馬かりて燕追ひ行わかれかな
   北枝

はな野乱るゝ山のまかりめ
   曽良

月よしと角力に袴踏ぬきて
   はせを

鞘走りしをやかてとめけり
   枝



こからしや寒さかさねよ稲葉山
   落梧

よき家續く雪の見ところ
   はせを

鵙の居るさとの垣根に餌をさして
   荷兮

黍の折あふみちほそきなり
   越人



      貞亨五戊辰七月廿日

         於竹葉軒長虹興行

粟稗にとほしくもあらす草の庵
   はせを

やふの中よりみゆる青柿
   長虹

秋の雨歩行鵜に出る暮かけて
   荷兮

月なき岨をまかる山あひ
   一竹

ひたるしと人の申せハひたるさよ
   越人

藁もちよりて屋根葺にけり
   胡及



      餞別會

旅人と我名よハれんはつしくれ
   芭蕉

亦さゝむ花を宿々にして
   由之

鷦鴒(カヤグキ)の心ほと世のたのしきに
   其角

粮をわけたる山陰の鶴
   枳風



幽蘭集 三

梅わかなまり子の宿のとろゝ汁
   はせを

笠あたらしき春のあけぼの
   乙州



木のもとに汁も鱠もさくらかな
   はせを

西日のとかに能天気なり
   珎碩

旅人のしらミかき行春くれて
   曲水



両の手に桃とさくらや草の餅
   はせを

翁になれし蝶鳥の児
   嵐雪

野屋敷の火縄もゆるす陽炎に
   其角



ぬれて行や人もをかしき雨の萩
   はせを

薄かくれにすゝきふく家
   亨子

月見とて猟にも出す舟あけて
   曽良

干ぬかたひらを待かぬるなり
   北枝



幽蘭集 四

野あらしに鳩ふき立る行脚哉
   不知

山にわかるゝ日をはきの露
   荊口

はつ月や先西窓をはかすらん
   はせを

浪の音好人もありけり
   如行



月見する座に美しき顔もなし
   はせを

庭のかきの葉みの虫となれ
   尚白



しほらしき名や小松吹萩すゝき
   はせを

露をみしりてかけ移す月
   皷蟾

踊の音淋しき秋の数ならん
   北枝

よしのあミ戸を問ぬゆふくれ
   斧卜



   元禄四年

やすやすと出ていさよふ月のくも
   はせを

舟をならへておき渡す雲
   成秀

ひらめきて咲も揃ハぬ萩のはに
   路通

鍋こそけたるおとのせはしさ
   丈艸

とろとろとねむれハ直る駕のよひ
   惟然

城とりまハすゆふ立のかけ
   狢睡



   元禄五年

      深川夜遊

青くても有へきものを唐からし
   はせを

提ておもたき秋のあら鍬
   洒堂

暮の月槻のこつはかたよせて
   嵐蘭

坊主かしらの先に立るゝ
   岱水



幽蘭集 五

   元禄五年

けふはかり人も年よれはつしくれ
   はせを

野は仕付たる麦のあら土
   許六

油実をうらむ小粒の吟味して
   洒堂

汁の煮たつ秋の風はな
   岱水



うちよりて花入さくれうめ椿
   はせを

降こむまゝのはつ雪の里
   彫棠

目にたゝぬつまり肴を引かへて
   晋子

羽織のよさにゆきを繕ふ
   黄山

夕月のミちふさけなるかんな屑
   桃隣

出代過て秋そせはしき
   銀杏



   元禄六年

傘におしわけミたる柳かな
   はせを

若くさ青む塀の筑さし
   濁子

朧月いまた火燵にすくミゐて
   涼葉

使の者に礼いふてやる
   野坡

洗濯をしてよりゆきのつまりけり
   利牛

ほめられて又出す吸もの
   宗波



八九間空て雨ふる柳かな
   はせを

春のからすの畠ほる聲
   沾圃



紫陽花や藪を小庭の別座敷
   はせを

よき雨あひにつくる茶俵
   子珊

朔日に鯛子賣の聲聞て
   杉風

出駕籠の相手誘ふ起々
   桃隣



いさミたつ鷹引すゑるあられ哉
   はせを

流れの形(なり)に枯る水草
   沾圃



寒きくやこぬかのかゝる臼の傍
   はせを

提てうり行はした大根
   野坡



幽蘭集 六

梅かゝにのつと日の出る山路かな
   はせを

ところところに雉子の鳴たつ
   野坡



      隠士山田氏の亭にとめられて

水鶏鳴と人のいへはや佐屋泊
   はせを

苗のしつくを舟になけ込
   露川

朝風にむかふ合羽を吹たてゝ
   素覧

追手のうちへ走る生もの
   翁



柳小折かた荷は涼し初真瓜
   芭蕉

間引捨たるみち中の稗
   洒堂

むら雀里よりおかに出ありきて
   去来

塀かけわたす手前石垣
   支考

月殘る河水ふくむ舟の端
   丈艸

小鰯かれて砂に照り付
   素牛



ひらひらと揚る扇や雲のミね
   はせを

青葉ほちつくゆふたちの朝
   安世

瀬を落す舟を名残に見送りて
   支考

はなれて家を作るはら中
   空芽

月のかけ砧の拍子乗てきぬ
   土龍

大かたむしの手を揃へなく
   丹野



幽蘭集 七

此みちや行人なしに秋の暮
   はせを

岨のはたけの木にかゝる蔦
   泥足

月しらむ蕎麦のこほれてに鳥の寐て
   支考

ちひさき家を出て水くむ
   游刀

天気相羽織を入て荷拵へ
   之道

酒ていたミのとまる腹癖
   車庸



しらきくの目に立てみる塵もなし
   はせを

紅葉に水をなかす朝月
   園女



   如行か旧茅に旅ねせし時

霜寒き旅寐に蚊屋をきせ申
   如行

古人かやうの夜の木からし
   はせを


秋の暮行先々のとまやかな
   木因

萩にねよふかおきにねよふか
   はせを



文月や六日も常の夜には似す
   はせを

露をのせたる桐の一葉
   左栗

朝霧に飯たくけふり立分て
   曽良

蜑のこふねをはせあかる磯
   眠鴎

烏なくむかふに山をみせにけり
   此竹

まつの木間より続く供鑓
   布嚢



      賀新宅

能家や雀よろこふ背戸の粟
   はせを

蒜にミゆる野きくかるかや
   知足

投わたす岨のあミ橋雰こめて
   安信

風呂たきに行月のあけほの
   翁

杉垣のあなたにすこき鳩の聲
   知足

はつ霜おりてかミこもミつゝ
   安信


麦蒔てよき隠れ家や畠むら
   はせを

冬をさかりに椿さくなり
   越人

昼の空蚤かむ犬のね返て
   野仁


      高久角左門にて

落来るやたかくの宿の時鳥
   はせを

木の間をのそく短夜の雨
   曽良


      細川春庵亭にて

薬園にいつれの花を草枕
   はせを

荻のすたれをあけかける月
   棟雪

爐けふりの夕を秋のいふせくて
   更也

馬のりぬけし高藪の下
   曽良


      風流亭

水の奥ひむろ尋る柳かな
   はせを

ひるかほかゝる橋のふせ芝
   風流

風わたり的のそれ矢に鳩鳴て
   曽良


      盛信亭

風の香も南にちかし最上川
   はせを

小家の軒を洗ふ夕たち
   柳風

物もなく梺ハ雰に埋れて
   木端


      寺島彦介にて

涼しさや海に入たる最上川
   はせを

月をゆりなす浪のうき海松
   令道

黒鴨の飛行庵の窓あきて
   不玉

梺ハ雨にならんくもきれ
   定連

椛とちの折敷作て市を待
   曽良

かけにまかする霄のあふら火
   任暁

不機嫌のこゝろに重き恋ころも
   扇風


何処迄も武蔵野の月影涼し
   寸木

水相似たり三またの夏
   はせを

えひくひに群ゐる魚の名を問て
   荷兮

ゑほし着ぬ日の更に楽なり
   越人

懐を明てうけたる山さくら
   落梧

蝶狂ひ落欄干の前
   秋芳


うらやまし浮世の北の山さくら
   はせを

雪消えのこれほそね大根
   句空

人足の天窓かそへる春風に
   去来


塒せよ藁ほす宿のともすゝめ
   自準

秋をこめたるくねのさし杉
   はせを

月見むと汐引のほる舟とめて
   曽良


古池やかはつ飛こむ水の音
   はせを

芦のわか葉にかゝる蜘の巣
   其角


百景や杉の木の間にいろみ草
   はせを

箒を杖にわらふ山公家
   浪化

隣からいはひと雛の餅くれて
   去来


卯の花も母なき宿そ冷ましき
   はせを

香きえ残る短かよの夢
   其角

いろいろの雲をミにけり月澄て
   嵐雪


くさの戸や日くれてくれし菊の酒
   はせを

くも手にのする水桶の月
   乙州


枯枝に烏のとまりけり秋のくれ
   はせを

鍬かたけ行雰の遠さと
   素堂


かちならハ杖つき坂を落馬かな
   はせを

角のとがらぬ牛もあるもの
   土芳


ひよろひよろと猶露けしや女郎花
   はせを

こんにやくかひに行朝の月


市人にいて是うらん笠の雪
   はせを

酒の戸をたゝく鞭のかれ梅
   抱月

朝かほに先たつ母衣を引づりて
   杜国


梅白しきのふや鶴をぬすまれし
   はせを

杉菜に身する牛二ツ馬一ツ
   秋風


能程に積かはれよみのゝ雪
   木因

冬のつれとて風も跡から
   はせを


いささらは雪見にころふ所まて
   はせを

硯の水のこほる朝おき
   左見

同し茶の焙したらぬハ気香もなし
   怒風

 杜国改
三十余年もとのかほなり
   野人

あの山のあかりハ月の御出やら
   支考

かやつる世話もやめて此比
   胡江

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