佐久間柳居

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『夏山伏』(百明台西奴、綾川観鷺貫撰)

百明台西奴は白井鳥酔、綾川観鷺貫は鈴木戸凉。

 元文2年(1737年)5月20日、佐久間柳居は白井鳥酔、鈴木戸凉を伴って江戸を立ち、箱根に向かう。小田原で阿州に赴く松木珪琳に会う。

 28日、鳥酔は塔の沢を立ち、三保の松原に向かう。芦ノ湖畔で都へ旅する秋瓜に出会う。三保の松原まで同行し、清水で別れる。秋瓜は古川太無

元文2年(1737年)7月、刊。

   箱根温泉に浴(ゆあみ)せむと思ひ立に、
   山伏も鹿渡でとやらんいへる俗語の
   おかしく、此題を出して、ことぶきの
   酒汲かはす。中にも百明が坊主
   あたまも此時にこそと、けふの
   先達をぞゆるされける。

     兜巾(ときん)

夏菊を折て兜巾の首途かな
   百明房

     篠掛(すずかけ)

すゞかけや一折づゝに皐月晴
   綾川房

     螺貝(ほらがい)

うけ持て清水の時宜やほらの貝
   松籟庵

   于時元文二丁巳五月廿日



   留 別

鶯も音を入れてなけ庵の留守
  麥阿

 笠に古葉をちらす藪垣
   竹垣



   目なれたる舟路も、けふは
   旅ごゝろの珍らしく、先づ
   佃の住吉を遥拝して。

遊びよし爰住吉のよし雀
   麦阿

姫小松ちるや佃の楫(さお)
   鷺貫

夏柳拜まれたまふ波間より
   西奴

   増上寺を見やりて

舟からは遠寺の鐘や夏木立
   麦阿

   故郷上總の山々をなかめて

舟涼し念比ふりに國の山
   西奴

麦あをつ道々むせぶ別れかな
   敲氷

   遊行寺

あぢさいも僧に化てや鼡色
   鷺貫

   酒匂を日暮てわたるに、
   川番所のともし火照あふ。

行燈を余所目に川は螢かな
   西奴

   小田原にて珪琳が阿州へ赴くにあふ

      君は旅におもむき我は旅にとゝまる。
      いはゝ河梁の吟なるへし

噺すうちに飛違ふたり笠の蠅
  麥阿

 杖を引する蕎麥の上
   珪琳

   雲水の二字をわかちて珪琳へ送る

すゝしさや左右に別るゝ雲の袖
   鷺貫

海に出るまてや清水の長の旅
   西奴

   留 別

又いつと心ほそさよことし竹
   珪琳

沖まてもけふのいさみや鰹舟
   珪琳

   早雲寺 祇空居士の廟前にて

千年の墓かと見へて散松葉
   麦阿

   湯の山のけしきいかゞなつかしとて、
     武陵より此のおとずれあり。

こちらでも浴衣に帯の暑かな
   宗瑞

   廿八日 塔の沢を立て道すがら

岩ともに持て行たき清水かな
   西奴

   名さへ賽の河原の鉦あはれにたち
   やすらひて、ひとり心細く湖水をながめて
   居たるかはらに、あみだ笠着たる
   法師の彳むを見れば、かねて相しれる
   秋瓜坊なり。誠に地獄にて仏
   見たらんやうにて、是は是はと手を打て、
   偖いづくへ思ひ立るぞと問ふに、都あたりに
   しるべありて行よし、我は三保の松原一見に
   こゝろざし侍る、それまでのよき道連
   ならん、いざまづ日暮ぬうちにとて
   関打越えんとす。

中よしの海山かけて風涼し
   西奴

 瓜をふたつの坊主つれ立
   秋瓜

   三嶋明神にて

卯の花の雪解や神子の化粧水
   秋瓜

入梅晴や鳩の鞁(つづみ)の神楽堂
   西奴

   沼津三枚橋、石矢亭に草鞋を解く。
   其座敷のしつらひしほらしく、
   花生に河骨の水際涼しく、芭蕉翁の
   跡をかけられたり。彼是の心づかひを
   感じて、先這寄て見れば。

     長月の末都を立て初冬の
     晦日近きほどに沼津に至る
     旅館のあるじ所望によりて
     風流捨てがたく筆を走らす

都いでゝ神も旅寝の日数かな      ばせを

   五月の晦日、沼津矢部氏の許にやどりて、
   祖翁の神も旅寝のとありし筆の跡を拜す。

五月雨を爰に笠脱ぐ日数哉
   秋瓜

 風をむかへる門の蚊やり火
   石矢

   清見寺

     折から掃除日とて
     寺僧のあまたおり立ければ

箒とる坊さま涼し清見潟(寺)
   秋瓜

清見とは松の葉越の鰹ぶね
   西奴

   我は都へ赴くとて、清水の追分にて別る。

昼がほやそなたへ二輪こなたへも
   秋瓜

 汲て涼しき名もしみづ酒
   西奴

   からうじて由井の駅にとゞまる。
   昼のつかれに枕をとりて。

おもしろや蚊屋へ寄せ来る青海波
   西奴

   大磯にて

     「むら千鳥其夜は寒し虎が許」と
     いへる、晋子が句をおもひ出て。

巣にも今通ふて見せる鵆かな
   麦阿

   江の嶋

琵琶聞かぬ日もうつむくや百合の花
   麦阿

   鶴岡八幡

皺面に風のかほりや社人達
   麥阿

繪馬を出て鳩も氣延へや夏の花
   敲氷

御寶にさくや葵の唐にしき
   鷺貫

   稱名寺

干してある苔の衣や猿すへり
綾川觀 鷺貫

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