俳 書

『藁人形』(陸夜編)



元禄17年(1704年)3月、刊。南会木陸夜編。許六序。

茲に越国直江の津に吟士あり、会木と号す。名は陸夜といふ。年月蕉門の学を勉、此道に遊ふ事久し、同士を勧め友人を扶く。堂下に大きなる桧あれは、皆人会木と云。近き比、南の方に掘移しけれハ、南の一字を蒙らしめて南会木と称し侍る。木作ト非や 会氏藁人形を造りて予ニ序あらん事をこふ。

   芭蕉翁
あかあかと日はつれなくも秋の風
   杉風
しほみ居て恥すや霜の女郎花
   其角
秋の空尾上の杉にはなれたり
   嵐雪
出かはりや幼心にものあはれ
   桃隣
白桃や雫も落ず水の色
   曽良
浦風に巴をくつす村千鳥
   岱水
起々の心動すかきつはた
   史邦
くらかりに覆盆子喰けり草枕
   野坡
ぼんぼりとまだ日はのこる柳かな
   去来
岩ばなやこゝにもひとり月の客
   風国
三井寺や海より月のぬれあかる
   千那
唇に墨つく児のすゝみかな
   尚白
道ばたに多賀の鳥井の寒さかな
   乙州
芭蕉葉やうちからし行月のかけ
   尼智月
山さくら散や小河の水車
   正秀
鑓持のなをふりたつるしくれかな
   曲翠
若楓茶色になるも一さかり
   洒堂
庭鳥や榾焼よるの火のあかり
   土芳
さほしかのかさなりふせる枯野かな
   涼免(菟)
あらさむし阿漕阿漕と啼鴎
   諷竹
住みよしのまひと時雨と暮るまて
   園女
蜑の子の肌なつかしやあしの花
   杜国
似合しき芥子の一重や須磨のさと
   野水
一色もうこくものなき霜夜かな
   越人
君か代や筑广(麻)祀も鍋ひとつ
   猿雖
あれあれてすゑは海行野分かな
   荷兮
麦喰し雁とおもへど別れかな
   如行
さひはてゝ鮎草臥つ水の淀
   露川
口あいて初雪まつや炭俵
   荊口
乳母とものあそひところや桐のはな
   此筋
蔦の葉のおちたところを時雨けり
   文鳥
稲妻のきれてのこるか三日の月
   盲人己百
行あたる壁にもさそな月のかけ
   落梧
嫁ふりのうこき出けり今朝の穐
   李由
草菱よそれがおもひか萩すゝき
   許六
春なれや田の青海苔に啼蛙
   白雪
四五本の松を小楯や雉子のこゑ
   桃先
疵のつく木末木末や秋の風
   桃後
節季候の拍子をぬかす空家かな
   卯七
京入や鳥羽の田植の帰る中
   素行
梧の葉や秋をまつ夜のうらおもて
   魯町
山の端をちからかほなり春の月
   呂丸
さひしさの胸に折込枯野かな
   牧童
ほんほんと荷をか(ママ)つをとや五月雨
   北枝
時雨ねはまた松風のたゝおかす
   十丈
朧夜や水田をもれて菜種畑
   浪化
松風のひき捨をなく鶉かな
   眠鴎
雪墻や鶴に乗たる人をみず
   左栗
みゝかゆし何をかきかむ御代の春
   布嚢
あかつきや風にまたゝくたか灯籠
   陸夜
文学に仮名をつけるや梅の花
   丈草
雷おつる松はかれ野のはつ時雨
   凡兆
矢田の野やう(ママ)らのなくれに鳴千鳥
   羽紅
縫ものやきもせてよごす五月雨
   惟然
ねころひてまたるゝものよ小夜千鳥
   雲鈴
はつ雪に分別のある山もなし
   支考
雪霜の骨となりてや梅の花



翁行脚の昔、或法師を聞及たりと尋給ひけれハ、亭シハいてあハすして、桃青ならは物書てみせよとて硯出したり。曽良大に口惜かれと書て出セり。軈て主シ驚て出合頻に請しけれハ、暫し草鞋のまめを休め給へり。

 藁人形 下

   春の部
 江戸
花さそふ桃や歌舞妓の脇おとり
   其角
 彦根
から獅子の顔て仏のわかれかな
   李由
 
近江とや都にちかきはな曇り
   許六
 井ナミ
うくひすや爪にもかけぬ梅の花
   浪化
 高岡
鶯のあそひ飽てや岩のはな
   十丈
 難波
市立て鵜沼のさとや啼蛙
   諷竹
 直江津
誘引ても物手につかぬ花見かな
   左栗
 加賀
うくひすの顔をかたけて花のうら
   秋之坊
 名コヤ
この山の寒さを握るわらひかな
   露川

月花の目を休めはや春の雨
   支考

草餅の似せかねつかふ蛙かな
   許六
 日田
霞とて行や花見の内家老
   野紅

入相の雛や八嶋の破れ口
   許六
 岩城
うくひすに口きかせけり梅の花
   路通
 江戸
病僧の庭はく梅のさかりかな
   曽良
 セゝ
うくひすの聟を染けり藍畠
   洒堂

(花)殻の小村を埋むさくら哉
   許六

   夏の部

耳たてゝ野鳥も聞くやほとゝきす
   許六
 江戸
(安)きせを人に教へよ杜若
   嵐雪

   しのぶ摺の石

青麦の今もあるしやしのふ摺
   助叟

涼しさや八景にかく膳所の城
   許六

うとんやハ人に喰はれてあつさ哉
   許六
 鳴海
五月雨や鷺の乗たる渡し舟
   知足

   美濃の関にて

町中の山や五月ののほり雲
   丈艸

小間物をおろす石有門すゝミ
   許六

   坂田にて

海川をまたけて涼し袖の浦
   助叟
 日田
あら麦や肥そろハねと鳴鶉
   朱拙

   秋の部

夕やけの百性(ママ)赤し秋の風
   許六

看経ンの間を朝皃のさかり哉
   許六

褌の早下に手間取相撲かな
   許六

新そはの信濃はなしや駒迎へ
   許六
 サカ
名月やさすかに夜のたからにて
   去来

   冬の部

時雨行雲や女中の多賀参り
   許六

かねかりにさのゝ渡や雪のくれ
   許六

乞食の尾かしらもなき冬の月
   許六

絵の中に居るや山家の雪けしき
   去来

楊貴妃を屏風て囲ふ煤払ヒ
   許六

   訪近江

聞かせあふ町のはなしや冬の里
   野坡

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