安斎仙鳥


『卯の花くもり』

安斎仙鳥の追悼句集。

享和2年(1802年)5月、仙鳥の弟の雪涛が刊行。河上庵泰里序。

   姉仙鳥身まかりけるに

卯の花の雪折かなし上つ枝
   雪涛
  雪涛妻
乾ははしな卯波の露の袖袂
   ちゑ
  坂の下
   姑の身まかり給ふかなしさに

はかなしや今墨染のころもかえ
   よね

   晨鐘とともに往生したまひけれは

暁の鐘身にしむやほとゝきす
   鳥秋


  雪下
□両は鵜に呑まれたる蛍かな
   百遊
  大町
紫の雲路に床しほとゝきす
   米社

   いつの事かとよ仙鳥うし身
   まかるよしそこの友かきの音
   信たるに
  露柱庵
扨はとてそなたへ向は柳散る
   春鴻
  江戸
芍薬もくねる数なり夕あらし
   成美

   去年の卯月仙鳥のうし
   こなたへわたりたまひてかたミに
   うれしと語り合ひ侍りしに
   此卯月は長き別れと成ぬる
   ことのいとかなしく只夢の
   やうにたいめの折からの目に
   残り侍りて

俤のゆかし袷のうしろつき
   古友

   星の井安斎氏仙鳥ぬし
   卯月六日に往生したまふと
   藤沢よりしらせけるにうち
   おとろきて

先へ散る花尊しや芥子畠
   泰里



   我か宿近き長谷寺に詣て

咲にけり誓の花の朝さくら

みしか夜に稗蒸ひまの夢も哉

   松承庵古友尼の庵を尋て
   猶其風流をしたひ侍る

幾千代も松を頼みや藤かつら

   都岡崎より蝶夢法師の我草扉を
   尋たまひけるに

花の後葉にも都の風薫る

   師叟河上庵の尋られて

小座敷ハはいかい客や網代守

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