各務支考

『東西夜話』(支考編・許六校)


 元禄14年(1701年)、各務支考は京を出発して、近江から越前、加賀、越中の旅をする。

 元禄14年(1701年)、『東西夜話』(支考編・許六校)。

東西夜話 上

彦 根

五老井に例の人々よりて、櫻山伏畫圖の餞別あり。
法師の行さきのあはれなるさまをかけるなりけり。
さて一軸に封して、笈の中のたからとす。なにかし
の繪傳といふものに似て侍らは、それはおそれおほ
き事にやあらん。



敦 賀

   我奈良の茶はこの里そほとゝきす

      けふは今宵色の濱見むと出立たるに、
      波あれて船のたよりよからす。は
      るかにこなたより見やりて、

   卯の花の浪こそかゝれ色の濱

木芽峠

      是より白山の雪にさしむかふ。孤
      峰は頭しろく、衆山はみとり也。

   志ら山や黒きは一羽ほとゝきす

山 中

温泉を紫雲湯ともいひ、白鷺湯ともいへるよし。むかし長のなにかし此所に鷹狩し給へるに、しら鷺の見ひたしてその疵いえたりといふ事、舊記に侍れはいふなるへし。一とせ吾翁の菊は手おらすといへりけるか、菖蒲のめてたき一ふしも、いかて其比のよはゐにはおとり侍らむ。

   鷺や來むあやめふきたる湯の茂り

      夜 話

此地に十景あり。先師むかし高瀬の漁火といふ題をとりて、

   かゝり火にかしかや波の下むせひ

今宵桃妖亭に此句を評して曰、かゝり火におとろかす魚はあまたありなから、むせふといふ一字によせていはゝ、小海老・河鹿の外あるまし。一句のたましゐを見るといふは此あたりなるに、鮎も鰻もおなし心なりとおもふ人には、ともに誹諧をいひかたし。

   名 録

晝かほに消ては夜のほたるかな
   自笑

おさな子の嬉しかりけり玉祭

澁柿も淋しき秋の相手かな
   桃妖

深草をわするな籠に啼鶉



   汐越松

關雪のぬし此日のあるしまふけせられて、川船に一樽の興を添たるに、道のほと一里はかりならん、江上の清風も山間の名月も、ともにとほしきあそひにはあらさりけり。

   松葉ちる嵐や礒は浪の花



   夜 話

今宵理屈の論あり。先師、柳固(コリ)片荷は凉し初眞瓜といへるは、初眞瓜の大切なれは片荷といへるか。法師か曰。しからす。なにかし實相院なといへる山伏の、旦那もとりのさまなりと見て置へし。次の夜ある人のとふ。風雅の理屈といふはいかに。法師曰。風雅に理屈なし。理屈はおのれおのれか心の理屈なり。たとへは理屈あるものは、柳固の句を理屈に見なし、理屈なきものはたゝ其まゝに見て置なり。はいかいは心をまなふへし。人の句をまなふへからす。

   留 別

川中て坊主はかむれ夏の月



なにかし全昌寺といふ寺は、先師一夜の秋をわひて、庭はきて出はや寺にちる柳といへる、其柳のあともゆかしかりけれは、人々此みてらにまいりて、

   青柳の若葉や秋もまのあたり



手取川

此川は北國第一の難所なるか、其見渡しは一里はか
りもあらん。川上は峰そはたちて雲その間につらな
り、川下は海あれて波こゝもとにちかし。今は水枯
のその時たに、八瀬九瀬にわたりくらふれは、東南
に雪晴て、彼大井川の川越の富士の雪見する時に殊
ならす。比は五月雨の雲ちかきに、夏草の花のいと
うつゝなく、なてしこの河原見かへりてそ、我はか
く越たる心地そせらる。

   晝かほやその夜もしらす手取川

金澤

   万子亭

此亭に先師竹の畫賛あり。殊に忌日の供養にかけ給
へりしか、此あるしはさる事のよしみも侍りて、又
かけ物の前に例の泣て、

   人いつこ竹のさみたれ竹の月

   秋之坊興行

ちかつきになりて腰より扇哉

   句空草庵

いさ一夜水鶏と我と松の声

   名 録

から笠をさしてはたしや春の雨
   句空

鵜飼火に燃てはたらく白髪かな
   北枝

美しう結せてほとく粽かな
   万子

すいと行水際凉し飛ほたる
   牧童

花にいさいそかはまはれ勢田の橋
   從吾

鴬も骨折る聲のゆすりかな
   秋之坊

石 動

   宿觀音寺

蝉の羽も暮て杉間の月細し

   觀音寺興行

六尺にひやりと見たし青瓢

ある人の曰、此句青ひさことよむへきか。曰、ひさこといへは物着てあつし。青ふくへといふ時は、はたかにていとすゝしからん。此さかいは和語也。

   詣埴生八幡

此みやしろは、そのかみ木曾殿の願状をこめ給ひて、覺明か名をとゝめし地也、我は西花坊。むかしは一紙の願状にほこり、今は一篇の風雅にあそふ。いつれか先、いつれか後ならん。たゝかりの世にかりの名なるへし。

   奉 納

白鳩の木末に凉し神の御意

   裸子の木槿の花もちたる畫の賛に

花むくけ裸わらはのかさしかな
  はせを

從古亭に此かけ物のかゝりて侍りしに、むかしの翁もなつかしく、法師も亦その繪に題して

裸子よ物着はやらん瓜ひとつ

   名 録

種物のあまれは母の所帶かな
   濫吹

誰か宿そ梅咲軒の手習子
   從古

啼蝉をうつらうつらと晝寐哉



井 波

   瑞泉寺

寄そはむ柱も凉し金のさひ

浪化の君なめり。都の花に名をならへて、嵐山の寐覺もいとふへかりしに、かゝる山里の明暮たに、風雅のたつきならましかはと、有礒の眞砂もひろひつきす、砺波山の雲に心をはなちて、かの撰集のぬしともなり給へり。さして續集の興も又たゝまらせ、法師は其むかしもしれりけるよしありて、いと心やすき事におきふしたるか、風雅ならてはいかにか侍らん。

なてしこもおらは都のにしき哉

   路健亭

六月によき隣あり萩の花

   留 別

稲々とそよくはつらし門の秋

稲ならはいは葉やみのゝ鮎鯰

   名 録

鶯の雫となるや春の雪
   浪化

卯の花むかひから來る火のあかり
   林紅

凉しさに青物屋とはなりけらし
   路健



東西夜話 中

高 岡

十丈のなにかし、六とせのさきならん、いせの國に
逢ひ侍りて、跡に居る我を山田の案山子哉といふ餞
別の名殘も、今更おもひ出るほとに

笠ぬきて見せはや我は其案山子

   留 別

八月十四日こゝの人々に別れて、
有礒の月見むと出立たるに、二上
山の麓に名殘をおしむ

月まてやこゝ高岡のむら紅葉

   名 録

鴬のあそひあきてや岩のはな
   十丈



三 国

   水音草庵

此法師もかゝる住ゐはよくしりて侍るか、來る人の
よしあしにつけて、是非に心をとゝめ給ふな。さり
とて是非をいはぬ人は、あほうの部に落て又おかし
からす。此ふたつのさかいをもて、世情の程といふ
事をしれは、俳諧も又さるもの也。



葛の葉やとちらむきても秋の風

   三国新保の人々は中に入江をへた
   てゝ、風雅の友達も船のゆきゝいと
   めつらしけれは

、 船越してとへやとなたも秋の暮

   寸松亭

帆にあまる風や松吹庭の秋

   日和山 昨嚢興行

ひよ鳥の雲やわたりて日和山

   名 録

はしり穂や合点合点と今朝の秋
   水音

ぬり笠は城から出たる花見かな
   昨嚢



   九月盡

行ものは秋のことくか足羽川

   立 冬

時雨ねは松は隙なり小六月

   名 録

寐轉むたまゝに此身や土用干
   韋吹

仕立たる夜着のにほひや秋の雨

峯の火の心ほそさや霧の中



   玉江の橋

影ならふ鷺の玉江や芦の霜
   支考

一あられ見はや玉江の橋の上
   水音

   名 録

身もちなもあらんに蝶の舞姿
   嵐技

不機嫌な風の音なり紙のほり

唐紙の一重もうきに天の河

各務支考に戻る