往年落柿舎にて、夜ひそかに翁をむかへ、向対の盃ありて、門人のかためをなさせ給ふ御こゝろざしの、目出度覚えぬれば、予も一かたにおもひ侍るよしを約して、心かたむかぬ等(ともがら)をぬきんで、撰集の余力とし、こしのとなみに鴈陣をたて、同じく綰柳の麾(ふで)をふるつて下知する事を、しかいふのみ。
|
となみ山の表
|
|
こがらしや沖より寒き山のきれ
| 其角
|
|
高きところに生るふゆ麦
| 浪化
|
|
来(くる)春の用意するらん木具提て
| 嵐雪
|
|
家は見事にたちそろひけり
| 桃隣
|
|
山鼻にしる人持てはしりよる
| 去来
|
|
|
|
初雪に真葛が原のめかけ哉
| 晋子
|
|
彼岸にて彼岸桜のちりにけり
| 彫棠
|
|
卯の花に芦毛の馬の夜明かな
| 許六
|
|
暁を引板屋(ひたや)にかはる妻もがな
| 秋色女
|
|
元禄猪頭雄進之日
| 其角
|
|
去来丈 演説し給へ
|
|
『砺波山』の撰集に我かたの連衆催されけれ
|
ば
|
|
捨鐘の間を振出すくれの雪
| 曲翠
|
|
鷹とまらせにおろすたれごも
| 浪化
|
|
松茸の数を袖より見せ合て
| 正秀
|
|
|
|
鶯に朝日さす也竹閣子
| 浪化
|
|
礼者うすらぐ春の静さ
| 去来
|
|
|
|
ことし乙亥のむ月加賀の金沢に旅寝す。たま
|
たま蕉翁の百ケ日に逢侍れば、句空・北枝が
|
等(ともがら)をまねき、終にこの日の作善(さぜん)
|
をおこす。
|
|
即 興
|
|
問残す歎のかずや梅のはな
| 北枝
|
|
春も氷にしづみつくいけ
| 浪化
|
|
田を返す馬の鞍蓋こしらへて
| 句空
|
|
石つる方へとやのかたがる
| 林紅
|
|
白水の二番取おく月の影
| 牧童
|
|
梧桐落るを秋の手はじめ
| 筆
|
|
|
|
追悼のほ句
|
|
去年の神無月、翁の辞世し給ふ事も越路のは
|
しばしにはやゝ日数へて聞えぬれば、義仲寺
|
へ手向杯(など)おそなわ(は)り侍りて、晋子が
|
『終焉の記』にもゝらされし事人々あさ(し)まし
|
とおもへれば、今こゝにかきとゞめぬ。
|
|
落着は難波のゆめや都鳥
| 句空
|
|
かなしさや時雨に染る墓の文字
| 浪化
|
| カゞ
|
冬籠うき次手なる別哉
| 万子
|
|
風渡る枯葉に見るや雪の舎利
| 秋之坊
|
|
白玉も涙の名なり冬つばき
| 林紅
|
|
聞忌に籠る霜よのうらみ哉
| 北枝
|
|
|
|
蕉翁の落柿舎に偶居し給ひけるころ、たづね
|
ま(ゐ)いりて、主客三句の情をむすび立かへり
|
ぬるを。その後人々ま(ゐ)いりける序、終に一巻
|
にみち侍るとて、去来がもとより送られけ
|
る。
|
|
葉がくれをこけ出て瓜の暑さ哉
| 去来
|
|
野松に蝉のなき立る声
| 浪化
|
|
歩荷持手振の人と咄しして
| 芭蕉
|
|
かごと御供の間(あは)ひとぎるゝ
| 之道
|
|
半時(はんじ)ほど夜のかゝりたる月の入
| 丈艸
|
|
火のぱちぱちと燃てやゝ寒む
| 支考
|
|
軒口は蔦這のぼるふしん前
| 惟然
|
|
兄弟どもが兄をあがむる
| 野童
|
|
切立て畠見渡す丹波やま
| 野明
|
|
|
|
賀刀奈美山撰集
|
|
凩や釼を振ふ砺浪山
| 去来
|
|
元禄八乙亥歳暮春上澣
| 正竹書
|
浪化上人に戻る
