小林一茶



『たねおろし』

長沼の門人素鏡の種おろしの祝いに、一茶が代撰したもの。

「種おろし」は八十八夜の前後に稲の種籾を苗代に蒔くこと。

文政9年(1826年)3月15日の皎斎素鏡自序がある。一具閑人、跋。

一茶最後の撰集。

信濃の俳人を始め、各地の俳人の句が紹介されている。

   正風院庭前

評判の牡丹はどれとどれにかな
   素鏡

是程のぼたんと仕方する子哉
   一茶

大空や理屈のとれし秋の暮
   魚淵

涼しさや夜もつき添ふ歩き神
   春甫

小坊主が二番泣ぞよ小夜砧
   掬斗

あさぢふや菫じめりのうす草履
   完芳

寝《よ》(によ)とすれば拍子の揃ふ砧かな
   呂芳

  
見ても露見ても露也五十過
   松宇

   東叡山にて

  高井郡
鶯も上きげん也寛永寺
   春畊

女の名書て盞流しけり
   知洞

村なかや水ッ溜りの春の月
   梅塵

瓢箪で酒売る家や柿紅葉
   希杖

  水内郡
木がらしや馬に付たる石ぼとけ
   文路

うぐひすに蔦とらまへて覗きけり
   武曰

   宇治にて

茶の花やいとけなき子の手もとゞく
   白斎

鼠にも茶の子ふるまふ夜寒哉
   文虎

  
鶯の声費して日暮たり
   梨翁

早乙女の子をもぬらして戻りけり
   八郎

鬼貫が袖より出たり蝸牛
   雲帯

元日や此界隈はみな親子
   魯恭

秋風や逢ふを別の行脚同士(どし)
   葛ふる

草の穂や袂へ転る露の玉
   素鏡

風冷り冷りからだのしまりかな
   一茶

   三 越

里の子や木の葉並べて神迎
   幽嘯

   陸 奥

ある僧の澄して去し清水かな
   冥々

寒空やいつ迄柿の鳴子引
   雨考

十六夜やまだ夕顔の実なし花
   たよ女

人来れば行灯むける青田かな
   夢南

にこにこと夜は明にけり春の山
   百非

折よいか貰れ安(易)きんめの花
   馬年

山住や思ひ捨ても雪ははく
   雄淵

   上 野

万歳やおどけた神のゝり移り
   鷺白

   武 蔵

浮魚の蝶に逃たる二月かな
   呂律

いなづまや黄昏かけて有磯海
   国村

   恋

あはぬ恋しかも男に生れけり
   寥松

切凧や柿の木越へ(え)てあらし山
   鶯笠

時鳥亀に慈悲する人の上
   焦雨

東風吹くや川水汲で上る土手
   護物

晴てけり虎が雨ぞと人いへば
   対山

川留の御(後)夜つめ引てほとゝぎす
   鞠塢

水こぼす台の小寺やおぼろ月
   車両

松風や紅葉のおくの往生寺
   永帰

置かけて雨と成りけり山の露
   碓令

棚一ッ心で釣るつてふゆ籠り
   一峨

   下 総

  
霜がれや鍋で水汲む角田川
   双樹

  
何故に一ッ残るや小田の雁
   立砂

入らぬ木の花も咲く也春ぞとて
   斗囿

蝶とぶやねから歩まぬ初太良(郎)
   至長

永き日や夫婦山見に畠迄
   素迪

夕鰺の鰭に晴けり富士の山
   かつら丸

夕風や京の豆麩に梅の花
   李峰

下やみの小口に見ゆるけぶりかな
   月船

梟も夜寒をなくやうらの山
   若雨

木の間から人の来にけり春の雨
   鶴老

鶯のあくもの喰ひや老仲間
   雨塘

   常 陸

枯芦の声が通ふや油皿   李尺

あつき日や人あらはるゝ芒原
   よし香

   墨水

春風や塵(ごみ)におさるゝ都鳥   松江

   上 総

  
消る時御供申さん雪仏   徳阿

  
名月や乳房くはへて指して
   花嬌

あれしきの草さへ虫の世也けり   雨十

散花や凡夫ざかりの笑ひ声   白老

   安 房

よし切や兄弟中も与佐(謝)の海   (郁)

鶏頭と我夜や明て又暮る   杉長

   伊 豆

  
乙鳥(つばくら)の来て口上の長さかな   一瓢

   相 摸(模)

蜑が子の泣ずに遊ぶかすみかな   洞々

転げてもあそびになるやかたつぶり   雉啄

   甲 斐

道連に別れて多きさくら哉   漫々

鴨などの心で見たる柳かな   蟹守

山陰や何々の墓ありて   嵐外

   山 城

あつき日や立よる陰もうるしの木   雪雄

   三 河

長月やいかなる日にも菊の花   秋挙

梅持て尻から這入る戸口かな   卓池

   攝 津

  
草の月雉子も鳴かずに居られまい
   一草

ほとゝぎす膝のあたりの夜の景   奇淵

虫のなく中に大きな酒屋哉   三津人

   河 内

明行や千鳥の声の水になる   耒耜

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