加舎白雄



『田毎の春』

明和8年(1771年)1月、白雄自序、柴雨跋。

ふるとしのちの六月、東都の松露庵に作別の辞をのこし、信中にとどまること二百余日、千曲川のとし波あらきはつかあまりになりければ、やわたの里関古衲が独楽庵に春まつかりのやどりを定む。こは田毎のはつ日にたよりあり。

はつ日影友まつ雪のけしきかな
  白尾坊昨烏

  鶯

うぐひすのおのが声きく姿哉
   上田左十

  春風

はる風や波ひたひたと艤(ふなよそひ・ふなもよひ)
   上田雲帯

  蛙

田に水の入と啼出す蛙かな
   上田雨石

むつむつと聞殖したるかはづ哉
   ヤワタ左簾

  霞

畑中に川瀬うきけり夕霞
   トクラ柴雨

声々に烏は消て霞かな
   トクラ古慊

  田螺

ぞつくりと一舛ばかり田にしかな
   上田如毛

  白魚

しら魚や見附を越しぬり手桶
   トクラ鳥奴

  菜の花

なのはなや中に真青なはなれ山
   トクラ鳥奴

  落し角

あれあれし畑の中やおとし角
   上田麦二

  武水別社前

やわたの里に年を重ねし此神のめぐみいと尊く、しめのうち人なる左簾子とともに、みまへなる石杠(橋)をわたる。それさへ端出の繩ひきはへてかみつ代のむかしもおもひやらる

うらじろや幢柄(はたぼこづか)も神の春
   昨烏

  文通 春季不限

犬啼は明石の岸か小夜鵆
   江戸百卉

木つゝき(続カ)の猶美しや冬木だち
   巨計

はつ秋や夜の乾かぬ土のいろ
   武藏書橋

白浜のしろきがうへに霞かな
   魚生

明月やよし濡るとも艸のうへ
   文郷

川せみや居るほど居れば急にたつ
   柳几

蝙蝠や暮し黒木の鳥居より
   下総弄船

水茶屋へはき寄て置く落葉哉
烏朝

長き日やすみ切音のはてしなき
兎石

風すぢを糸にとゞめて鳳巾
   眉尺

いざ宵や目当の森にむかふうち
   上総雨林

稲妻や白うこぼるゝ草の露
木の女

はる雨や歩み行野に土竜
   相模鳥秋

あの雲に二日かゝりてはつ時雨
梅明

ことごとく名のなき木也おぼろ月
春江

落瓦のがれて萩のさかりかな
   大梁

はつ雪やきのふは市の朝ぼらけ
   雨什

しぐるゝやうき旅を問ふわらじ売
半化

我菴の天窓数にも瓢かな
   蝶夢

夕顔の花見て居れば暮にけり
呉扇

鶯や竹の折れしはきのふけふ
   江戸尺五

はつ時雨青き松葉も散にけり
   敲氷

石擲のむしろ寄けり梅の花
   百明

静さは夜の引明の霞かな
   柴居

水あびる烏に暮ておぼろ月
   烏明

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