白井鳥酔
『湘海四時』
明和4年(1766年)3月、大磯鴫立庵再興の記念集。 |
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明和5年(1768年)3月28日、穂雲楼青牛窓鳥秋序。 |
序 勝地に主なしとは古人哥語也しかあれとも此の鴫立澤には円上人の秋の夕くれの詞をもて主たる事やゝ五百七十余歳文治二年のころか澤中に草庵を締ふの創は書残せるものもなく又伝いも傳らす元録中東往居士中興すそれより春秋七十有稔雪霜に山澤崩れ雨嵐に柱礎を曲て来往風騒の客杖をとゝめて其あはれを慕ふ事稀也是をかなしむもの大磯の驛長船橋氏佐藤氏山本氏武井氏の四風子囁きあはせ鳥酔老師松原庵に玄居して在すを幸に江都にのほり烏明詞宗に語り向来松露庵遁るゝ主人は此鴨立庵に移轉すへくさあれは此庵は相一州執友のものなりと金約す鳥老師も終に諾す往し年弥生の晦柳居先師の位を肩にし来て草堂上人の肖像のかたはらに安し奉り二尊に香水のェをつくしかつ余生を夕くれの詠にたのしむ |
車銘 田一枚うへて立去る柳哉 宝暦中鳥老師山鯉房を携へ奥羽行李の戻りそこの田畔に立寄り其繊枝を手折り笠の端に挿み武中栗橋驛愛弟梅澤氏素人氏か窓外に刺す今一庭を蔽て八九間空にしられぬ雨を見る同州八王子の郷執友窪田氏古由君其一朶を懇に乞覓め園裡に養ひ給ふ此時亭々として車蓋に彷彿たりことし明和五戊子の春正月望の日志村氏書橋君又其梢をみつから折て一章を添らる是を榎本氏の室女星布平願をもつて鳥老師におくれるを爰の澤邊に移す 武都松露庵 侍瓶 昨烏題 似た僧のけふも立寄る柳哉 鳥酔 古今大歌所 御哥 こよろきの浪たちならし磯菜つむ めさしぬらすな沖にをれ浪 柳居先師 真那鶴の脛高々と汐干哉 |
湘 東 |
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舞つめて海からわたる雲雀哉 | 鳥秋 |
長閑さや海汲て焚く人の聲 | 春江 |
追加 侘 邦 |
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下総 |
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海原に逃水のある汐干哉 | 弄船 |
海久し来るたひことに春の色 | 昨烏 |
松藤庵 |
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遠浅の綱引は重し春の雨 | 柴居 |
土龍庵 |
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やうやうと海へ入けり帰る厂 | 百明 |
松露庵 |
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人聲は寄り藻掻也朧月 | 烏明 |