俳 書

『菅の小蓑集』(其両編)



天明4年(1784年)頃、『菅の小蓑集』(其両編)刊。重厚序。杏扉序。千鳥庵跋。

其両は平井氏。筑前篠栗の人。福岡藩士。浮風の門人。後、蝶夢門。

 そも此集の題号を「菅の小蓑」と名づくるいわれは、平井氏其両のぬし、ある暁に 神霊まのあたり蓑一重を授給ふと夢み奉りけるとぞ、さるは年ごろ太宰府にあゆみをはこびて深くこの 御神の冥加をあふぎ奉れるゆへにや、かゝる不思議の御さとしにあひ奉りしよろこびを申とて、その 神前に法楽の一折を興行し、其ころの先達の句を一軸となし、今の世の人の聞えし句どもまで書つらねて、宿坊に納め奉る。其事をしるせよといふに、筑紫の旅寐の折ふし、嵯峨野ゝ重厚序を書くこととなりぬ。

天満宮奉納

梅がゝにのつと日の出る山路かな
 ばせを翁

わが雪と思へばかろし笠の上
   其角

鶯にほうと息するあした哉
   嵐雪

名月や升のむかひの淡路島
   許六

花守や白きかしらを付合せ
   去来

飛こんだ侭か都のほとゝぎす
   丈艸

ほのぼのと烏くろむや窓の春
   野坡

かけまくもかしこき神の御告のあらたなる事の有がたく、とみに安楽寺にまうでゝ、飛梅の木のもとにぬかをつくとて

早咲は神のこゝろの小春かな
  其両

 玉垣ふかき水とりの声
   諸九



   春之発句

うぐひすにかへごとせばや桐火桶
   重厚

草庵に一木の梅あり、ひとゝせの火に焼残りけるより、いにしへの蜑のたきさしのためしに琴木の梅とよぶ

片枝はすがりもやらで梅のはな
   蝶夢
  参河
散る梅の窓に灸の匂ひかな
   木朶

残りなくちるぞめでたきとこそ詠しに
  遠江
ちる跡にありてきたなし桃の蘂(しべ)
   白輅

潘安仁が秋の風を歎じ鬢の髪やゝ白みたり。かの宗祇法師が髭には事たがひたれば
  江府
香をとめて白髪愛せん窓の梅
   成美

月遠く柳にかゝる夜潮かな
   白雄
  常陸
下もえに鶏の尾をひく籬根哉
   五峰
  陸奥
鶴まふや真向にうつる春の水
   素郷
  越後
黄鳥啼おふせては尾のうごく
   桃路

あたりの禅林に西湖梅といへるあり。こやいにしへ夢想(ママ)国師もろこしよりうつし植給ひしものとぞ。予が庭にも接木してことしより咲ぬるに

唐うたを啼鳥もあれ梅のはな
   石牙
  安芸
うぐひすの笛になれとや竹の口
   六合
  筑後
戻りには日の暮はつる雲雀かな
   而后

盃にも一吹まつ桜かな
   杏扉

淡雪やかはらぬ色で降ながら
   文沙

   夏の発句
  江府
白がさねにくき背中に物書む
   蓼太

花守の問ず語りや夏木立
   柳几

水車夏の朝日の雫かな
   烏明
  豊後
夕顔や湯殿はひ出るひきがへる
   菊男
  当国
水上に立ふさがるや雲の峰
   梅珠

   秋の発句
  浪華
きりぎりす行灯にあり後の月
   二柳

夢にも人にあはぬと聞えしはむかしにて

乗掛の角刀(ママ)に逢ぬ宇津の山
   旧国
  美濃
海原と見しは蚊屋なり雁の声
   君里

   三眺庵閑坐

さし覗く人影さしぬ秋のくれ
    青蘿
  豊後
寐たらよき夢もみるべし月こよひ
   一幹

落のこる桐の葉赤しうす月夜
   蝶酔

ゆりこぼすやうに見えてや散やなぎ
   なみ

簔虫よ啼やむは父にあふたるか
   依兮

月影にひとり立けり鶏頭華
   素柳

   冬の発句
  近江
跡かくす庵となりけり今朝の雪
   沂風

寒苦鳥といふものゝ翌日は巣作らんと啼けるも明れば忘るゝとや、人もその事かの事心にはかりて月日ぞうつりゆく
  甲斐
是ほどは何なした日ぞ古暦
   敲氷
  江府
貯し菊折くべんをけらの夜
   泰里
  上野
さびしさやおこらんとする炭の音
   素輪
  洛陽
冬川にむさきもの啄む烏かな
   几菫

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