そも此集の題号を「菅の小蓑」と名づくるいわれは、平井氏其両のぬし、ある暁に 神霊まのあたり蓑一重を授給ふと夢み奉りけるとぞ、さるは年ごろ太宰府にあゆみをはこびて深くこの 御神の冥加をあふぎ奉れるゆへにや、かゝる不思議の御さとしにあひ奉りしよろこびを申とて、その 神前に法楽の一折を興行し、其ころの先達の句を一軸となし、今の世の人の聞えし句どもまで書つらねて、宿坊に納め奉る。其事をしるせよといふに、筑紫の旅寐の折ふし、嵯峨野ゝ重厚序を書くこととなりぬ。
天満宮奉納
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梅がゝにのつと日の出る山路かな
| ばせを翁
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わが雪と思へばかろし笠の上
| 其角
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鶯にほうと息するあした哉
| 嵐雪
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名月や升のむかひの淡路島
| 許六
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花守や白きかしらを付合せ
| 去来
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飛こんだ侭か都のほとゝぎす
| 丈艸
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ほのぼのと烏くろむや窓の春
| 野坡
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かけまくもかしこき神の御告のあらたなる事の有がたく、とみに安楽寺にまうでゝ、飛梅の木のもとにぬかをつくとて
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早咲は神のこゝろの小春かな
| 其両
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玉垣ふかき水とりの声
| 諸九
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春之発句
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うぐひすにかへごとせばや桐火桶
| 重厚
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草庵に一木の梅あり、ひとゝせの火に焼残りけるより、いにしへの蜑のたきさしのためしに琴木の梅とよぶ
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片枝はすがりもやらで梅のはな
| 蝶夢
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| 参河
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散る梅の窓に灸の匂ひかな
| 木朶
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残りなくちるぞめでたきとこそ詠しに
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| 遠江
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ちる跡にありてきたなし桃の蘂(しべ)
| 白輅
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潘安仁が秋の風を歎じ鬢の髪やゝ白みたり。かの宗祇法師が髭には事たがひたれば
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| 江府
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香をとめて白髪愛せん窓の梅
| 成美
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月遠く柳にかゝる夜潮かな
| 白雄
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| 常陸
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下もえに鶏の尾をひく籬根哉
| 五峰
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| 陸奥
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鶴まふや真向にうつる春の水
| 素郷
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| 越後
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黄鳥啼おふせては尾のうごく
| 桃路
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あたりの禅林に西湖梅といへるあり。こやいにしへ夢想(ママ)国師もろこしよりうつし植給ひしものとぞ。予が庭にも接木してことしより咲ぬるに
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唐うたを啼鳥もあれ梅のはな
| 石牙
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| 安芸
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うぐひすの笛になれとや竹の口
| 六合
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| 筑後
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戻りには日の暮はつる雲雀かな
| 而后
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盃にも一吹まつ桜かな
| 杏扉
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淡雪やかはらぬ色で降ながら
| 文沙
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夏の発句
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| 江府
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白がさねにくき背中に物書む
| 蓼太
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花守の問ず語りや夏木立
| 柳几
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水車夏の朝日の雫かな
| 烏明
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| 豊後
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夕顔や湯殿はひ出るひきがへる
| 菊男
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| 当国
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水上に立ふさがるや雲の峰
| 梅珠
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秋の発句
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| 浪華
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きりぎりす行灯にあり後の月
| 二柳
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夢にも人にあはぬと聞えしはむかしにて
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乗掛の角刀(ママ)に逢ぬ宇津の山
| 旧国
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| 美濃
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海原と見しは蚊屋なり雁の声
| 君里
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三眺庵閑坐
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さし覗く人影さしぬ秋のくれ
| 青蘿
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| 豊後
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寐たらよき夢もみるべし月こよひ
| 一幹
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落のこる桐の葉赤しうす月夜
| 蝶酔
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ゆりこぼすやうに見えてや散やなぎ
| なみ
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簔虫よ啼やむは父にあふたるか
| 依兮
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月影にひとり立けり鶏頭華
| 素柳
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冬の発句
| 近江
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跡かくす庵となりけり今朝の雪
| 沂風
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寒苦鳥といふものゝ翌日は巣作らんと啼けるも明れば忘るゝとや、人もその事かの事心にはかりて月日ぞうつりゆく
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| 甲斐
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是ほどは何なした日ぞ古暦
| 敲氷
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| 江府
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貯し菊折くべんをけらの夜
| 泰里
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| 上野
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さびしさやおこらんとする炭の音
| 素輪
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| 洛陽
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冬川にむさきもの啄む烏かな
| 几菫
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