鶴屋句空

俳諧草庵集』(句空編)


元禄13年(1700年)、『俳諧草庵集』(句空編)。自序。

 元禄2年(1689年)7月、句空は芭蕉が『奥の細道』の旅で金沢を訪れた折に入門。

俳諧草庵集 

十とせあまりのむかし、知恩教寺にてかしらおろし
侍りて

 何に染む若葉の比の太布衣

行脚の心さしも、檜笠のしめ緒耳のねいたく、藁沓
の駕あしくひ疲れぬ。一とせはせをの翁有磯めくり
の杖をしたひ、粟津野の草分て風雅の筵をかたしく。
日數經て山田の原におもむきぬ。其後は折々の文
通のみ。今一たひ山中の温泉、しら根の雪見にとち
きり給ひしも、難波の夢と成けり。やつかれ久しう
眼目をわつらひ菴にかゝまりて、今に塋前にひさま
つく事もなし。函底に兼好の繪あり。是に故翁の句
ふたつあり。義仲寺にての吟也。去年の文月、玉祭
わさもいつしか廿日過たるきりこの許に、このむし
の鳴けるより何となく思ひより、終に名付て草庵集
といふあり。

   元禄庚辰春 小雨のころ
   加陽卯辰山下乞士句空述

はせを翁

淋しさや釘に掛けたるきりきりす

秋の色ぬかみそつほもなかりけりといふ句は、兼好の賛とて書たまへるを、常は庵の壁に掛て對面の心ちし侍り。去年義仲寺にて、翁の枕もとにふしたるある夜、うちふけて我を起さる。何事にかと答たれは、あれ聞たまへ、きりきりすの鳴よはりたると。かゝる事まて思ひ出して、しきりに涙のこほれ侍り。

   中秋の夜は敦賀にとまりぬ。雨降
   りけれは

月いつこ鐘はしつみて海の底
 はせを

   敦賀の驛の屏風に侍り。此國行脚の時
   の吟なるべし。

月影や九つ過の人とをり
 牧童

名月や鞭をあくれは阿太子山
 風國

はらはらと一雨きたりけふの月
 句空

横雲のちきれてとふや今朝の秋
 北枝
井波
瓢箪のすゑて花さく殘暑哉
 林紅

   魂祭の句とて
山中
線香の火にもとりたる螽かな
 桃妖

いける身はしなの蓮より丹後鯖
 路通

   心々にものやかなしきとよめる式
   部はいかなる時にか有けん

盆過の宵闇悲し虫の聲
 松山

   秋の花
なには
まうしまうし六藏か申女郎花
 梅翁

蜩やいつれ一匹むしの聲
 丿松
大坂
捻上て友待顔や雁の首
 諷竹

   鎌倉にて
伊勢
夕陰や膝に稲おく大佛
 團友
山中
菊の香や蕎麥見にゆけは谷の奥
 自笑

曉のしはふき寒き二階哉
 自笑

   いほりに客をまふけて

燃てくれ紅葉の枝に小折なし
 秋の坊

   秋の旅

   山中入湯のころ、やとのあるし桃
   妖子に乞て、翁の菊はたおらし
   形見を拜す

なつかしや菊はたおらし湯の匂ひ
 北枝

   手とり川を渡る

海にそふ北に山なし稲百里
 仝

   此安養坊の山にかゝるを七まかり
   といへり。富山へまかるとて

秋の日にまかりかゝるや願海寺
 句空

   高岡にて

鷲の子のちからつきけり秋の風
 仝

 中稲かたふく水の隈々
 野角

油木を伐ちらかせは月晴て
 十丈

   翁の一周忌は、秋の坊庵にあつま
   りて法師へかたみの、やかて死ぬ
   けしきは見えすのかけ物に向ひて

   題時雨

しくるゝや師匠なき世の神無月
 句空

取かへす心も消るしくれ哉
 北枝

一しくれふる中程の心かな
 秋之坊

   翁一周忌は加州にありて心のまゝ
   ならす、かすかすの恩を思ひて
大津
ひとつひとつかそへもならす玉あられ
 乙州

石動
人肌にいけおほせたる火桶かな
 濫吹

   深(※サンズイに「冗」)著世樂 無有慧心
江戸
つとめよと親もあたらぬ火燵哉
 嵐雪
豐後日田
行千鳥うさんかるやら海坊主
 朱拙

   放生津にて

まくれよる荒波寒しかこひ舟
 十丈

俵物に年とらするや牡丹土
 去来

俳諧草庵集 

   春
長崎
鶯の海見て鳴か須广の浦
 卯七

   呂風亭にて

黄鳥や谷の心て藏のあい
 浪化
いせ
黄舌や茶色にしほる春の雨
 支考

梅の花むたひな雨はふつとたれ
 惟然

   能州にて

鹿渡嶋や鴈も磯なの暇乞
 正秀

   卯辰山金剛密寺は瑜伽最上乘の靈
   場にして、乙劔大明神垂迹の地也。
   本地は不動明王なりとかや。此院
   の北の山陰に大きなる藤あり。そ
   の陰をたのみてすみ侍しころ花の
   さかりに

藤咲ていほりのやうになかりけり
 句空

   夏

   北國の浦つたひして

郭公晝休ミセよ黒津舟
 正秀
大津尼
とつはかはしても一期そ望帝
 智月

   此川のくろ谷橋は絶景の地也。は
   せを翁の平岩に座して手をうちた
   ゝき、行脚のたのしみ爰にありと
   一ふしうたはれしもと、自笑かか
   たりけるになつかしさもせちに覺
   へて、

今の手は何にこたえむほとゝぎす
 句空

   西行のよめる。
   山さとにこは又たれをよふこ鳥ひ
   とりすまんと思ひしものを

うき我をさひしからせよかんこ鳥
 翁

   此句あまたの集に見え侍れと、自筆に
   てかく前書の有を見侍しなり

   住よし眺望
彦根
青麥にしはらく曇る淡路哉
 許六
亡人
村雨や麥かる比の梅のみや
 一笑

   雜 夏

夏さへも有磯行脚のうつけ共
 惟然

   山中の桃妖子ははせを行脚の折か
   ら桃の一字をゆつりたまひけると
   や。されは其したしみもあさから
   ねは

爰にはや馴て幾日そ蚤虱
 仝

   はしめて加州に入て

白山の雪はなたれて櫻麻
 ろつう

俳諧草庵集 下

うさかの事は書籍に粗見へ侍り。鵜坂寺の縁起ニ曰、白鳳二年五月十五日俄に雷電霰降ル。其夜の中に苗杉ことことく大木トなる。十六日の曉大明神降臨。

秋なから蠅にあかくや雇ヒ馬
 句空

   奈呉の月みんとて射水川に舟よそ
   ひす。十丈のぬしねんころにとり
   まかなひて乘て出るに、程なく空
   のけしきかはりて雨に成たり。よ
   ね嶋とかやいふあたりより漕もと
   し、法光寺にうちあかりておの
   おの句あり。

名月や星うちちらす海のうへ
 十丈

   海の中より出る月を見せはやと人
   人とりとりにかたられけるに

せつかくとゆかしからせよ月の雨
 句空

   隱士をとひて

蕪汁てはれやれ何の菜のなさ
 惟然

   元旦
江戸
はや今朝はおもしろうなる萬哉
 杉風

鶴屋句空に戻る