鈴木道彦
『信濃ぶり』(松木可厚編)
文政2年(1819年)9月6日、道彦没。 文政4年(1821年)、刊。小河原雨塘序。 |
文政四年三月於金令舎興行 | 金令居士 |
垣根から秋のめぐるや荏(え)の匂ひ |
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汐の来ぬ間を稲雀なく | 可厚 |
酒樽も干鰯も送る朝月に | 芳洲 |
遊びながらの年札に行 | 雨塘 |
山添のつらつら椿咲にけり | 雉啄 |
春の名残の蚤にさゝるゝ | 乎焉 |
松やにの田中へ匂ふ四月哉 | 可丸 |
長閑さの浮て見ゆるや角田川 | 乎焉 |
世に住ば春に待れて梅の花 | 呂律 |
初花は夕あしたもなかりけり | 芳洲 |
霞日や羽折ながらの浜仕事 | 護物 |
ものいへば夫(それ)にもはこぶ霞哉 | 碓嶺 |
草ならでたはむれにくきつゝじ哉 | 久臓 |
(藏) |
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春雨の中を通ふや別座敷 | 蕉雨 |
春雨の夜々晴る旅路かな | 鶯笠 |
氷魚(ひを)取も見へ(え)ず柳の夜となりし | 寥松 |
滝の音の青葉に遠し中禅寺 | 応々 |
下サ |
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あみ交て淋しや寺の青簾 | 雨塘 |
安房 |
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咲せたし見たし葵は開くれに | 杉長 |
貰ふよりすぐに着て見る綿子哉 | 鹿太 |
唯居ても咲梅ながら家の春 | 川二 |
サガミ |
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二日月三日月だけの梅の花 | 雉啄 |
ムツ |
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かれてこそ忘れぐさなりわすれ草 | 乙二 |
青海苔の便りも嬉し小正月 | 雨考 |
黄鳥に声つく意地もなき雀 | 多代女 |
薺撰る宵や御次の丸行灯 | 雄淵 |
枝かへてまだ寝つかぬか月の鳥 | 鹿古 |
山シロ |
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風ふくや黄鳥の声はこぼれもの | 雪雄 |
カハチ |
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椎の月扇のつまにかゝりけり | 耒耜 |
朝水の桶よなじみの郭公 | 三津人 |
ヲハリ |
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舟々は大名衆の蚊遣りかな | 岳輅 |
ミカハ |
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そこらから京が見ゆるぞ揚雲雀 | 卓池 |
露に何か咄すよ門のたてわすれ | 秋挙 |
カイ |
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春の日や手を動かして梅を折る | 嵐外 |
ハリマ |
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淋しさは螢どころの夜の雨 | 玉屑 |
往あたるまで匂ひけり垣の梅 | 素檗 |
御降(おさがり)にぬるゝ野もせや草若み | 亀丈 |
永日やあかぬものには海と山 | 武曰 |
梅ありて月日のたつがおもしろき | 八郎 |
(朗) |
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こほろぎは霜夜の声を自慢かな | 一茶 |
(※「虫」+「車」) |
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初夏や水家に開る山の坊 | 可厚 |
文政四年巳の夏 |