「蝉碑」

『蝉乃声』


安永2年(1773年)、刊。高桑闌更序。

群馬県甘楽郡南牧村砥沢に「蝉碑」を建立した記念句集。

「蝉碑」



閑さや岩にしミ入蝉の聲

旅客の往来も咎めすくなき御代なりける。とゝき山の麓なる砥沢の関屋ちかき辺りに蝉の橋といへるあり。流きよく水底のいさこをかそへ奇石つらなりて磨けるかことし。 木々は倒に茂ミかつらハみとりの色をたるゝ。東はかひなし沢、西ハ蓼沼、亀か岩、猿嘯山も遠にあらされは山水の佳景たらさる事なし。橋上より望むに高からさる端山あり。木樵、山賊のかよふへき方にもあらされはをのつから塵埃ををへたツ。こゝに此地の社中風流の一簣を荷ひ、道に誠の志を記して鼻祖の霊魂を青松の陰にむかへ、碑面に蝉の高詠を刻て千載不朽の正風を留む。予此ときにめくり来れるをよろこひ共に鍬を携、箒を取て終に塚成侍れは碑前に香を焚、あまたゝひ稽首して序する事しかり。

 安永二癸巳夏
 金城半化坊

   碑面句

閑さや岩にしミ入蝉の聲

   次 韻

茂るこすえに谷の水音
   楚竹

各 詠

蝉啼や徳弥高き塚の松
   加賀闌更

家跡や野中に残る梅の花
   坂木鉄舟

名月や明れは解る諏方の海
  岩村田鶏山

霜ふかき野寺の道や枯尾花
  上仁手眉年

鶏の寐くらにむセふ蚊遣かな
   本莊一馬

春雨に動きもやらぬこすえ哉
   みツ

梅か香や白魚呼んて通りけり
   深谷素山

うくひすやむめほの白き朝朗
   厩橋素輪

きりきりす案山子の袖の中に鳴
   玉村湧水

鶯にほろほろあへのこほれけり
   深谷蝶阿

立とまる橋の真昼やセミのこゑ
   市月

白々と滝の落こむかすミ哉
   高崎雨什

春の暮湊に鯛のなき日かな
   雲水似鳩

死る日を知ツて死ぬ日や年の暮
   菊図

米搗やかたふく迄の夏の月
   一草

   追 加

月澄や小路小路の小夜碪
   松坂滄波

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