「蝉碑」
『蝉乃声』
旅客の往来も咎めすくなき御代なりける。とゝき山の麓なる砥沢の関屋ちかき辺りに蝉の橋といへるあり。流きよく水底のいさこをかそへ奇石つらなりて磨けるかことし。
木々は倒に茂ミかつらハみとりの色をたるゝ。東はかひなし沢、西ハ蓼沼、亀か岩、猿嘯山も遠にあらされは山水の佳景たらさる事なし。橋上より望むに高からさる端山あり。木樵、山賊のかよふへき方にもあらされはをのつから塵埃ををへたツ。こゝに此地の社中風流の一簣を荷ひ、道に誠の志を記して鼻祖の霊魂を青松の陰にむかへ、碑面に蝉の高詠を刻て千載不朽の正風を留む。予此ときにめくり来れるをよろこひ共に鍬を携、箒を取て終に塚成侍れは碑前に香を焚、あまたゝひ稽首して序する事しかり。 安永二癸巳夏
金城半化坊 |
碑面句 |
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閑さや岩にしミ入蝉の聲 |
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次 韻 |
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茂るこすえに谷の水音 | 楚竹 |
蝉啼や徳弥高き塚の松 | 加賀 | 闌更 |
家跡や野中に残る梅の花 | 坂木 | 鉄舟 |
名月や明れは解る諏方の海 | 岩村田 | 鶏山 |
霜ふかき野寺の道や枯尾花 | 上仁手 | 眉年 |
鶏の寐くらにむセふ蚊遣かな | 本莊 | 一馬 |
春雨に動きもやらぬこすえ哉 | 女 | みツ |
梅か香や白魚呼んて通りけり | 深谷 | 素山 |
うくひすやむめほの白き朝朗 | 厩橋 | 素輪 |
きりきりす案山子の袖の中に鳴 | 玉村 | 湧水 |
鶯にほろほろあへのこほれけり | 深谷 | 蝶阿 |
立とまる橋の真昼やセミのこゑ | 市月 |
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白々と滝の落こむかすミ哉 | 高崎 | 雨什 |
春の暮湊に鯛のなき日かな | 雲水 | 似鳩 |
死る日を知ツて死ぬ日や年の暮 | 菊図 |
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米搗やかたふく迄の夏の月 | 一草 |
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追 加 |
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月澄や小路小路の小夜碪 | 松坂 | 滄波 |