浪化上人

『浪化日記』(浪化著)



元禄5年(1692年)より元禄8年(1695年)に至る日記を収録。

元禄壬申の冬十月廿五日の朝夢想を見る事あり其日しも

  聖廟之御諱日かつ梅の花の句也

かゝる目出たき夢想捨おくへきにあらずと即ワキ仕りてことし二月廿五日開席に及ぶ處かれこれ指合て漸十月廿五日ニ企會
  御
折ほどは折おほせたり梅の花

 柳の間(アヒ)をわたる橋音
   浪化



   惟然子に旅館を問はれてしはらく語

   即席
  惟然
冷しさを吹こめぬるゝ板疊

百日紅に殘る日のいり
   浪化

親犬をおもたがる程取巻て
   其継



同四日加陽ヨリ洛ノ去來一封
相届即披閲

  翁事九月八日伊賀を發途同
九日難波に參着候處晦日ヨリ
痢病相痛申さる由聞へけるに
十月七日ニ去來正秀大坂へ下リ
介保追々木節乙李由臥高
探芝昌房等參訪ス其角も從
泉州十一日ノ夜參着生前の
對面を逐候キ翁病中にも
たゝ風雅之外他事なし
同八日之夜八ツに病中ノ吟の
由にて旅に病ンての發句を書せ
候ぬ其夜いつれも祈祷又
快氣を賀して各發句アリ

凩の空見出すや鶴の声
   去來

   又十一日の夜各夜伽申けれは
   翁申されける様いつれもの
   夜伽又他に異なれはいか様とも
   夜伽の句あらまほしと有けれは

病人のあまり啜るや冬籠
   去來

うづくまる藥の下の寒サかな
   丈艸

外又十句餘有此句中にも
出來のよし病翁も称美アリ
終に十二日ニ相果申され候
十三日遺骸を近江松本」の
木曾塚の寺にて葬送仕
一基立置申候
右病中以來臨終追悼の
句共文章を添て枯尾花
と号シキ角終焉記を書て
追付出版に及申候

         下略之

 支考惟然兩人病中前後勤之

枯尾華臘月十八日下着

十一日は加рノおもむく事有て
しはらく彼地に逗留し侍り
北枝句空なと會盟して
亡師の百ケ日を悼て各打
寄て一巻を結ふ逗留間も
なけれは十八日に催しぬ

  亡師百忌 廿三日

問ひ殘す歎のかすやんめのはな
   北枝

春も氷に沈みつく池
   浪化

小田返す馬の鞍蓋こしらへて
   句空

石つる方にと屋のかたよる
   林紅

(シロ)ミヅ(※サンズイに「甘」)の二番取おく月の影
   牧童

桐の葉ちるを秋の手はしめ
   筆



   廿一日

   同百ケ日追善會於卯辰山

   生駒氏万子興行 百韵アリ第三迄

   泣そめし時つほみけり梅の花
   万子



   旧年翁の終焉を聞て各悼める句

   翁の事霜月三日の暮方にうち聞て

聞忌にこもる霜夜のうらみ哉
   北枝

誹諧の神なし月を歎キけり
   牧童

落着はなにはの夢や都鳥
   句空

   抹香をひねりて

風わたる枯葉に見るや雪の舎利
   秋之坊

冬籠うき次手なる別レかな
   卍子



弥生の比本寺の御許に御とふらひ
わさせさせ給へはやつかれも其
むしろにつらなり侍らんと三月
六日に旅たち侍る

門下の輩送り出て折からの柳を綰ぬ

陽炎や雨にもあわぬ笠の色
   嵐青拜

   倶利伽羅は越路の切処なれは人馬困り

朝霞み峠を越る馬の息
   化

加賀の小松より少上つ方に今井
と云ふ處有今井の四郎か城跡也
今に古廓の形殘れり其兼平
石基は西向に立たり石の面に芭蕉翁
の三字を彫付たり晋子筆跡左は木曾
に相並へり北は湖水にのそみ
名山左右に連り有りかたき勝地
なり又无名庵は墓のうしろに
有リ翁殘生の内より丈艸に付
属なり即丈草をとふらひて談話
刻をうつす申の時斗に入洛ス
甲戌の夏古はせをの嵯峨の
辺に逍遥して

清瀧や浪に塵なき夏の月

と有けるを同しく冬浪花にして
病給ける床の上にも門生のやから
を近付て清たきの句心かゝり也
とてかくはいかゝとの給ふ声もかすかなり

清瀧や波にちり込青松葉

かく迄風雅を切に思ひ給へりと
去來子か語り侍り

   自畫賛

降らねとも竹植る日は簔と笠
   翁

これより竹植る日季に成
侍るも翁の晩作なり



   惟然句

鶯の薄壁もるゝ初ね哉

行春やきたなき顔に霄の雲

   翁の遺庵にて

淋しさを習ひ覺へて夏木たち

   翁の身まかり給ふたゝひいかの國におもむく道中

痩顔のうつりて寒し村の橋

   以上

同八月七日國に歸北時雨といふ紀行別にこれを記す

   古翁の遺句

八九間空で雨降る柳かな

淋しさの岩にしみ込ムセミ(ママ)

   畫賛

朝露によこれて凉し瓜の土

老の名の有ともしらて四十から

松風や軒をめくつて秋暮ぬ

しら露をこぼさぬ萩のウ子リ哉

しら菊の目にたてゝみる塵もなし

座頭かと人に見られて月見哉

   路通三井寺を立出る時

卒尓なる雲も出けり秋の旅
   通

   加にて初會

下枝にかまへて啼や秋の蝉
   仝

蚊の声も人にそはゆる川辺かな
   仝

   名月

随分と星も出けりけふの月
   仝

   良夜は金沢にして遇り旅坊の
   荒たる境内を打めくりて

名月に屋敷どなりの囃かな
   浪化

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