白井鳥酔

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『露柱庵記』(鳥酔編)

 宝暦10年(1760年)、露柱庵に滞在中の鳥酔が那古寺に遊んだ時の紀行「那古山詣」。

 宝暦11年(1761年)、『露柱庵記』(烏明編)刊。

蓮花楼 笠森村 坂東順礼霊蹤也

山頭又一層高き所に四方かけ造の大悲閣半空に危く立つ紫の雲常に覆ひ鬼神是を護て真身を慕ふ里人かいはく飛騨のかくみか墨矩なりとさも覚えぬ往昔高祖上人清澄山を出て先此御山に至り最第一の法花新宗弘法の加護を祈り給ふに不思議にも下山の時墨田日徳といへるものに相あふて師檀の約諾す是を基立とかやそこを行合坂といふ名は今に呼ふこゝには 墨繩のかしこき堂や蔦かつらといへる先師の一章を残す

      行堂の手に置く笠や露しくれ

那古にくたる磯女ともの小さき桶を天窓にいたゝき蓬累して呼ありくあり何といふ事そ茶舗の主人か云、こゝらては小鰹は買ないなといふ事とそ

      万葉の頃ならよまむ小鰹売

那古千手堂上   別当補陀落山那古密寺 坂東三十三所終

   御詠歌 ふたらくやよそにはあらしなこの寺
                  岸うつ波を見るにつけても

      静さや浪の浄土の秋の風

   月次定連

来る人の数さへ見へて初桜
 百卉

何の木になる山々そ朧月
 烏黒

武蔵

水茶屋も水へ寄らすや朧月
 八王子
 書橋

初雁やてうとよい頃起合せ
 春蟻

五月雨や橋を越えても水の上
  
 星布

帆柱の裸へ着たり蝉の声
  大森
 星飯

下総

酔臥した枕もとから清水哉
  銚子
 弄船

名月や底樋に分る水の色
  浜野
 鳥歌

上総

一すしの水に影追ふ乙鳥哉
  東金
 雨林

流れては草に宿かる田にし哉
 林雨

踏む草の暑い中から清水哉
 巨梅

動く葉に魚の道あり蓮の花
  坂田
 夜松

行々て花に鳥なし山桜
 雨十

   吉野にて

三芳野や杉を晴間に花の中
  近江
 文素

物着せるやうに暮けり山桜
 可風

   かつらき山にて

一言の主となりけり山さくら
 碓花

追加

星ひとつ梅に通ふやおほろ月
  雲水
 祖英

名乗られた声をいたゝく角力哉
下総銚子
 烏朝

一重つゝ鷺の着て行霞かな
 大至

蝙蝠や今撞く鐘の中を出る
 烏明

   我は此とき力を得たはふれの
   歌をよむこくらくのうちならはこ
   そあしからめ外はなにかくるし
   かるへき

むつかしの僧と見て立案山子哉
 鳥酔

文通

鷺と見て櫂にも立や今朝の秋
  江都
 蓼太

雪の日や川は一筋黒きもの
  武州
 柳几

夕皃やいつ葺かへて後の月
  尾州
 鉄叟

秋もはや草にへたてぬ蜻蛉哉
 和菊

名月や江戸から見ても富士の雪
 蝶羅

水にまたういういしさよ朧月
  越中
ノヘ庵

二ツ三ツ夜に入そうな雲雀哉
  
 素園

よいものを打出の浜や今朝の雪
琴堂子

春雨や大工の家に槌の音
 麦浪

ころころと坂を散たる椿かな
 秋瓜

けふの月柳も雨に似さりけり
 巻阿

八重に咲く花は恥へしけふの月
 止絃

迷子呼ふ八幡あたりやけふの月
 門瑟



春雨や濡てありかは富か岡
 左明

ひとゝせの春雨静なる時詞友にいさなはれてそこへ遊へる実境の吟なり

五月雨にかくれぬものや瀬田の橋又晋子か木母寺に歌の会ありけふの月これらにひとしくその所を得たる句といふへしとおのおのうらやめりけりおのれもよしやと覚へて鼻のあたりおこめける俤見るやうにてなつかし

庚辰八月十三日没寿五十歳

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