千代尼

俳諧松の聲』(既白編)
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明和8年(1771年)、序。

加 賀 千代尼 艸
無外庵 既 白 編

   春の吟

   歳 旦

見るも寶みるもたからや日の始

  三とせのなやみさへけふはめでた
  く筆をとりて

ちからなく蝶まけさせむ今朝の春

ふたつみつ飛んで見て飛ぶ蛙かな

   柳

  小町の畫讃

さそふ水あらばとぬるゝ柳かな

梅がゝや空の行衛も惜まるゝ

眼をふさぐ道もわすれて櫻かな

   夏の吟

   更 衣

うつくしい人に寒さやころもがへ

ひるかほやあぶなき橋に水鏡

おとこならひとり呑ほどしみづかな

結べとも皆置て行く清水かな

雲の峰あたりの雲は何に成

   秋の吟

秋来ぬと唯秋来ぬとながめけり

あきたつや様ありげなる庭の草

  阿野の津の翁塚の手向

文塚や文字かゝふてをみなへし

朝がほや霄に殘りし針仕事

道すがらの月もまじりて月見哉

  翁像讃

いざよひやまだ誰々も見えぬうち

  石山讃

名月や雪路分で石の音

   花 野

月の眼の癖を直しに花野哉

   冬の吟

初しぐれ水にしむほど降にけり

初しぐれ京にはぬれず瀬田の橋

水仙花よくよく冬に生れつき

ころぶ人を笑ふてころぶ雪見哉

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