稲津祇空

『くち葉 下巻』(戸外編)


享保18年(1733年)4月23日、稲津祇空没。享年70歳。

『くち葉』(戸外編)甘千叟芳室跋。祇空の遺句集。刊年未詳。下巻のみの零本。

戸外は矢倉氏有感斎。泉州佐野の人。祇空の門人。芳室は祇空の実弟。

   秋

   筑紫へ渡る此日袖の湊の旧跡を見る

溝川もあふせやしるへほしの帯

   豊後羅漢寺に詣て

似た顔もさあり羅漢の玉まつり

   紫野に有し時後の月

老は見に九々にもあはす十三夜

   角上子と船にて湖にあそふ

名月にくはへて志賀の松の風

   いて羽の窪田を出て亀田にいたる
   遊野倚雲を尋て方石亭一会

立秋の高館よりそ鳥の塵

   本庄を立て又浜道を行

秋もふけ馬のまてかた浪よする

稲塚やこゝにたとへは塩覆ひ

   象潟 一詩有略之

萩さくや世はこしたけの蜆とり

   島は一瓶の花形に似たり

胴しめに秋の花それ蚶満寺

   男潟 聖廟奉納

姥貝も色かへぬ葉のはしら哉

   福浦を出て坂田加賀や十弥亭に
   やとる 袖の浦の句をもとむ

鳥の海の秋や裁ぬる袖の浦

   羽黒権現にまいる七月七日

懸こしに見よかさゝきの羽くろ山

   月山

月雪の中元にして山清し

   湯殿山

合掌に人は朝日の踊かな

   本道寺より篠屋峠をこへて八鍬村にて

蓑くむやきりこ燈籠の軒ならひ

   途中

さや豆の耳をこすりて流れ哉

   湯原泊 夢想の一句を得る

およそ露世の薬にて廻りけり

   岩城平へ着
      露沾公にて御会

平けく山や児鷂の其きほひ

   野田玉川

求め見む野田村有て釣道具

   緒たへの橋

網影の緒たへに飛や鰭の露

   八幡宮住吉宮奉納

松風や紅葉にこもる七やしろ

   名古曽

関の謎折ふし紅葉今も猶

   平潟 華蔵寺にて野鼓邪の珍菓を見る

世に引や如意の菓を海の月

   江名

秋汐や谷にかくして鯨船

   名月 八幡宮祭礼 五里八幡

影分む月は三五里一やしろ

   境と云ふところ分峰か庵にて

(ママ)菊の足もたせあふあたりかな

   九月十三日 東武にかへり庵崎に帰庵

状箱のふた夜の月を工合かな

   悼 素堂

みの虫みの虫錠に鈷浮き水の月

   園女蔽牛庵崎を訪し時

十日過て醤油をとす黄菊にも

   早雲寺 宗祇の墓にて

西行にまけぬ角力や花もみち

   三州 鳳来寺にまいりて

春と見ん竹千代様の宮はしら

   同 長篠の城址古戦場

甲斐なきとおもふも義心秋の風

   石部

しら萩やうつるも曇る蟹の淡

   大津

花に見んしるも四のみやまつり幕

   鳴海亀世か帰るに送る

菊に先見るや星崎旅日和

   七月四日 筑紫に旅行して
   天拝山にいたる

文月や天拝岩の雲の色

   都府楼 竈門山を見侍りて

見しや誰石の角文字稲むしろ

   善導寺 勧喜院にやとる

声を縫ふ鳩も晴間を竹の春

   久留米 秋虎亭にやとる

はつ秋にふらぬ与所目や杉の雲

   はかたに入住吉の社にまいりて

たうとしなこゝも行合旅の秋

   此辺を逍遥して

あふけ代に扇の海は残暑なし

   箱崎を出て七月八日
   香椎の宮

綾杉やけに織姫の後の朝

   宇佐

西の海や四方にしら旗秋の月

   御拝山にのほる

秋の葉を踏もおそれや山まうて

   下関芦畔亭にやとる
   阿弥陀寺の絵の一間を一見して

一門はしろきを後そ秋の雲

   長門一宮住吉へまうて
   宗祇師の百枚短策を見る

ひかりしる百首やひらく千々の秋

   長井氏か亭にやとる

はらり穂は神と船との礒田かな

   山口にいたる

義隆の錦も秋のうつゝかな

   旅中無難にしてはや播磨路入は
   中秋なり雨夜

命かなめいよ名月旅の雨

   旅情

いさよひやあかしへ三里根こし吹

   別府 瓢水亭に一夜

海山もちかきに語る松露哉

   生田祠 祭礼

春や命生田のことし米

   尼崎より船中之吟

笠にふけ煙をかつく鳥おとし

   紫野にすめと清心庵に
   侍りし時

鐘に居てすまてや人も梢の柚

   南都 石川氏の亭にて

ひかり知る目貫めてたし奈良の菊

   規跡子に送る

船と水中稲にはやせ三笠山

   途中

間引つむ腰は我知るあつさ弓

   春日社 奉納御遷宮は明年とていとにきはひ侍る

仮御殿今そさくらの薄もみち

   やまとを経て浪花へ帰る
   後の月

十日あまり影やわけ根をみかの原

   西の方行脚し
   草庵へかへりし時

旅こゝろさめて金なし菊はけふ

   旅中 大礒を出て重陽

けふ水に高麗寺山見るきくは

   江島

龍池より身をはなれ鵜や秋の風

きくやいかに貝商も海の秋

   湯本 宗祇師の墓にて

秋寒し黒木の文も玉の声

   入湯本 旅店

このやすさ蚊の苦はぬけて谷の秋

   冬

   庵崎の庵をしつらひし時

身の程を見るや冬菜の青鵐

   十月廿一日於相州早雲寺
   宗祇墓前剃髪

我影もかみな月なり石の上

   湯もとにて

人目さへかれぬ湯もとの楊弓場

   箱根をのほる時

日中の世をかた岨や霜はしら

   由井

袖袂米かつ蟹のしくれかな

   冨士

あめつちをよ所に懐炉の主人公

   八橋に立よる

から衣耳かたふけて頭巾かな

   岡崎

こからしや末ふき町の掃除触

   桑名をこして

鍋焼や跡は七里のひな曇

   悼 嵐雪居士

なけく子も妻もなき野の霜嵐

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