菊図坊祖英
『俳諧菊の露』
小 序 祖英法師亡てより撰集の志ありて三とせをまつ時に蝶阿風人東行行脚の杖を留て此撰をのそミ國々の發句を集るに、頗病身にして炎暑厳寒にさえられ徒にひととせをおくりいてや梓にちりはめむとセしを、亦吏用にいとまなき事ありてむなしく二とセを過す。所謂遅心をもつて形の役とするゆえなりと自歎息す。漸今年春三月中旬に小冊となして東西へおくる事となりぬ。 |
五斗米の捨やうゆかし華さかり | 素山 |
序 全身脱去して雲中に鈴をならし火裏に座して渇を唱えなと几をはなれたる知識も有しとなん僧菊図深谷の驛に杖を留ることとしありしかある日素山に對し我山中をのそます市中を好す世を去へき時来れり爰におゐて云事なしとて既に去んとするに山しきりに辞世を乞ふ僧笑なから |
死事を知て死日やとしのくれ | 僧 |
何ゆへに身を隠セしそ華の春 明和とらのとし
半化坊 |
元録四年九月三日 歌仙 |
うるハしき稲の穂並の朝日哉 | 路通 |
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雁もはなれす溜池の水 | 昌戻 |
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白壁のうちより碪打そめて | 翁 |
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蝋燭の火をもらふ夕月 | 正秀 |
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頼れて銀杏の廣葉かち落す | 野徑 |
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すかりて乳をしほるゑのころ | 乙州 |
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此一巻ハ路通の真筆にして越中魚 |
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津倚彦と云る者の家珍なりしを予 |
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行脚の頃写し来りて今爰に現す |
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春雨の中よりたつや土の息 | 本庄駅 | 一馬 |
嶋松を海のはてかとけふの月 | ゝ女 | 美つ |
蜘のとるや常にハ憎き蠅なれと | 吹上 | 東阿 |
蝶々や提た花とは知らて寄 | ゝ | 橋志 |
菜の花爾長閑き大和河内かな | 東都 | 蓼太 |
雉子啼や己か住野にあまりあり | ゝ亡 | 鳥酔 |
青柳や細き所に春の色 | ゝ | 太無 |
松風の吹こむ音や天の川 | ゝ | 門瑟 |
紙燭してしくれの色を見る夜哉 | ゝ | 珪山 |
上州高崎 | ||
猫の戀ある夜ハ石をうたれけり | ゝ | 雨什 |
長閑さやなかれぬ水に魚の音 | 伊香保 | 棧谷 |
鯉はねて水動けりかきつはた | 前橋 | 素輪 |
信州上田 | ||
秋の雨炉をきる畳なかめけり | ゝ | 雨石 |
藤棚に鮎賣眠る昼間かな | ゝ | 左十 |
男氣と人のいふらむつはくらめ | 諏訪 | 自得 |
越中富山 | ||
行秋や碇ふまえて啼からす | 亡 | 麻父 |
加州金沢 | ||
分入れハ人の背戸なり山さくら | 亡 | 希因 |
何見ると問人多し春の月 | ゝ | 麦水 |
小原女にたはこ振舞ふ雪見哉 | 津幡 | 見風 |
初厂や難波も伊勢もおなし時 | 敦賀 | 琴路 |
むらむらと小魚浮立春田かな | 丸岡 | 梨一 |
いくつ居ても鳴ぬ蛙や秋のくれ | 栗津 亡 | 可風 |
夕日さす長やの窓や唐からし | 京都 | 蝶夢 |
夕涼ゆふ顔ひとつ見付たり | 勢州 亡 | 麦林 |
尾州名古屋 | ||
行秋や碇ふまえて啼からす | 也有 |
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下馬さきやしくるゝ中を割足 | ゝ | 暁臺 |
正月や烏帽子あきなふ旅の人 | 藤田 | 葛履 |
秋の水古五器ひとつ流れけり | 安達 | 冥々 |
文通 |
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暑き日や土をくわえて飛鳥 | 藝州 | 風律 |
行脚之部 |
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名月や空かと思ふ鹿の声 | 三日房 |
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夏雲や冨士より晴て三保か崎 | 似鳩 |