加舎白雄



『加佐里那止』

 明和8年(1771年)7月、『加佐里那止』(しら尾坊著編)。橘中庵麦二序。自跋。

山里は万歳遅し梅の花

おとろひや歯に喰あてし海苔の砂

五月雨にかくれぬものや瀬田の橋

這出よかひやが下の蟾の声

稲づまや闇のかた行五位の声

蓑虫の音を聞に来よ屮の巻

恵比須講酢うりに袴きせにけり

ふるさとや臍の緒も(ママ)なくとしの暮

 書の論に、石に入事三分といへども、法を得て躰を変ぜざるは、書家の奴たりとや。十人が十人ながら、翁ひとりを目当なりと、精神をとゞめし晋子の言葉、また常ならず。

木母寺に歌の会ありけふの月
   其角

臥処かや小萩にもるゝ鹿の角
   去来

木つゝきの入まはりけり藪の松
   丈艸

さみだれや硯箱なるとふがらし
   嵐雪

橘や定家づくえの置どころ
   杉風

艸苅よそれが重いか萩の露
   李由

うの花にあし毛の馬の夜明哉
   許六

秋の田やはかりつくして稗二俵
   尚白

ひとつ葉のひと葉ひと葉や今朝の霜
   支考

おくり火やうしろさがりの袴ごし
   史邦

わか楓茶いろになるも一さかり
   曲翠

鰤の尾の提てたちけりとしの暮
   正秀

あり明やひかりおさまるもゝの華
   北枝

馬の尾に陽炎ちるや昼はたご
   惟然

琴ひいて老を噛せよ夕すゞみ
   智月

七夕よものかす事もなきむかし
   越人

いつ迄か雪にまぶれて鳴ちどり
   千那

ほんのりと日のあたりたる柳哉
   野坡

これ法を得て躰を変ぜし人々たるべし。



   春

   江戸
鶯や聞お(を)ればげにはるの鳥
烏明

   江戸
常だにも粥炊菴ぞわかなの日
柴居

   尾張
梅さくや宮様領の水の味
蝶羅

   武蔵
しら梅に藁藉をはたく日南(ひなた)
魚生

   秋も嘸(さぞ)とおもふあたりにて

   江戸
わか艸や我落にきと詠しあと
百卉

   信中
はる雨や杉の濡たる森の中
柴雨

   
誰も来てたゝかぬ門の柳かな
諸九

   諏訪の湖にて

   信中
畑うちよ衣が崎はいづこなる
左十

長閑さや犁おとこたゞの人
隨和

   信中
犬の吼る近道行ば椿哉
鳥奴

   伊セ
真似板の音かすか也花ざかり
滄波

   武蔵
来て見ればたしかなものやふぢの花
柳几

   イセ
行春や水はひがしへながれけり
呉扇

   夏

   江戸
灌仏や旅で逢たるたのもしさ
百明

   江戸
麦秋や日は暮兼て鳩の声
敲氷

槇原に追たてらるゝ鹿の子哉
普成

   雲水
藻の花やかざしてあそぶ魚は何
既白

早乙女の蓑ほころびて暮にけり
也寥

山畑やひとひらつゝむ桜あさ
雨石

   秋

   江戸
猿牽のやどに声ありけさの秋
門瑟

   伊セ
ほし合や二夜とあらばわらひもの
二日坊

   高野にて

夕露に親のあしあとふむ日哉
麦二

   
朝露や木の間にたるゝ蜘の囲
蝶夢

   信中
明月や何ぞ問たき嶋の人
雲帯

霧たつや梢は近き猿の声
雨什

   下総
種ふくべたね入替て行秋ぞ
弄船

   冬

   加賀
冬籠のがれしうへの世なりけり
見風

   信中
冬ごもり蓑に鳴なる鼡の子
如毛

   相中
筆とらぬ日も多かりし冬篭
大梁

   下総
網入し沖のくもりやみぞれ降
兎石

牛部屋にむしろ提けりみぞれの夜
眉尺

   越中
芹川に何つむ人ぞとしのうち
玉斧

から鮭も暦も黒しふるはしら
秋瓜

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