倉田葛三



『葛三句集』

文政2年(1819年)11月、雉啄『葛三句集』上梓。

 春 之 部

   いつくしま

青空や舞楽を拝むはなの春

嬉しさの先ひとふしをはたけせり

梅に人夜は闇にてもなかりけり

しなぬ人葛古、草庵の年越客なりけり、正月九日古郷のかたへまかるとて、雉啄か馬入川の辺りまて送る。

うらしろをかさに縫ふへきよしもかな

鳴蛙かはらぬかほを浮へたり

うき人の数にもたらすはつ桜

はなの世や家にありては家桜

家の子の詫言すみし花見哉

 夏 之 部

船おりやとりはやされて衣更

   短 夜

柴の戸や寝ねはなほなほ明やすき

旅人の掃除して居る清水哉

それと見てみえすなりたる鵜舟哉

撫子のいかなる野にも咲にけり

六月や十日くらせし一と手柄

   上毛草津の温泉

もらはやな草津の草に夏氷

   春鴻仏を奠る

ときは木のひと葉拾ふも仏事哉

 秋 之 部

   加 茂

旅なれやよき社にて秋のかぜ

稲妻のなけれはなくて静なり

月夜よし行々あてはなかりけり

柿売のいとまこひする月夜かな

はつかしや泊りをいそく秋の月

名月や老を名乗りて高わらひ

八朔や松の位かほの見ゆる

稲の香や四五日休む旅つかれ

秋の夜やきのふわかれし人の文

八九年とはぬ在所を鹿の秋

くれるとて馬さへかざす柿紅葉

   二見の浦

青海苔のわすれぬ色や后の月

 冬 之 部

   義仲寺にて

淡海のあはにもうれし初時雨

刈萱上人のおきつきは処は、善光寺にへたゝること二千弓はかりになん

しくれても紅葉也けり往生寺

木さゝぎにいさよふ霜の朝日かな

三井の鐘霜の声にも驚きぬ

都鳥よそ目せましき舟場かな

かつしかの芦間芦間もなつかしければ、しはらく巻中の秀逸にさためて、おのれ葛三かのも並へたるあはれさ、察したまへおのおのと内山千東所蔵小点詞書あり。

酒飲を見しるや雪の都鳥

武隈の松葉ひと焚土火鉢

世を行も拍子ものなり鉢たゝき

   

冬の日の残るところや瀬田の橋

みちのくを見て来て梅の師走哉

   広島にて

胝の愈て年する奢りかな

『葛三句集拾遺追加』

「虎杖庵葛三居士四時吟中」(畳翠亭蘇鳥編)より摘記せるもの也。

   みちのく

高館や馬ひとあまり寒かりて

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