与謝蕪村

『蕪村自筆句帳』

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明和3年(1766年)10月2日までの句を収録。

   春

うぐひすのあちこちするや小家がち

燕啼て夜蛇をうつ小家哉

なの花や月は東に日は西に

ゆく春やむらさきさむる筑波山

白梅や墨芳しき鴻臚館

なの花や月は東に日は西に

   懐旧

遅き日のつもりて遠き昔かな

   暁台とゝもに嵯峩・伏見に遊ぶ

夜桃林を出て暁嵯峩の桜人

うかぶ瀬に沓並べけり春のくれ

苗代や鞍馬のさくら散にけり

   夏

   波翻舌本吐紅蓮

閻王の口や牡丹を吐んとす

不二ひとつうづみのこして若葉哉

絶頂の城たのもしき若葉哉

   丹波(後)加悦といふ所にて

夏河を越すうれしさよ手に草履

夕風や水青鷺の脛(はぎ)をうつ

花茨故郷の路に似たるかな

きつね火や五助新田の麦の雨

ちりて後おもかげにたつぼたん哉

牡丹切て気のおとろひしゆふへ哉

(うすづく)や穂麦が中の水車

さみだれや大河を前に家二軒

二人してむすべば濁る清水哉

   洛東芭蕉庵落成の日

耳目肺腸こゝ玉まく芭蕉庵

   秋

負まじき角力(すまひ)を寝物語哉

稻づまや浪もてゆへる秋津しま

名月にゑのころ捨る下部哉

鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉

順礼の目鼻書ゆくふくべ哉

   遊行柳のもとにて

柳散清水涸れ石処々

ひたと犬の啼町越てお(を)どり哉

   山 家

猿どのゝ夜寒訪ゆく兎かな

   雲裡坊つくしへ旅だつとて、我に同行を
   すゝめけるに、えゆかざりければ

秋かぜのうごかしてゆく案山子哉

   須广寺にて

笛の音に波もより来る須广の秋

名月やうさぎのわたる諏訪の海

仲丸の魂祭せむけふの月

   弁慶賛

花すゝきひと夜はなびけ武蔵坊

かなしさや釣の糸ふく秋の風

   良夜とふかたもなくに訪来る人もなけれは

中々にひとりあればぞ月を友

うき我にきぬたうて今は又止ミね

仲丸の魂祭せむけふの月

折くるゝ心こぼさじ梅もどき

   幻住庵に暁台が旅寝を訪(とひ)

丸盆の椎にむかしの音聞ん

   三井の山上より三上山をのぞみて

秋寒し藤太が鏑(かぶら)てひゞく時

   冬

寒月や枯木の中の竹三竿

楠の根を静にぬらすしぐれ哉

西吹ヶば東にたまる落ば哉

磯ちどり足をぬらして遊びけり

   讃ыoシにしばらく旅やどりしけるに、
   あるじ夫婦のへだてなきこゝろざしのう
   れしきに、けふや其家を立出るとて

巨燵でてはや足もとの野河哉

初雪や消ればぞ又草の露

   泰里が東武に帰るを送る

嵯峩寒しいざ先くだれ都鳥

斧入て香におどろくや冬木立

乾鮭や琴(きん)に斧うつひゞき有

我頭巾うき世のさまに似ずも哉がな

   うかぶ瀬に遊びて、むかし栢莚がこのと
   ころにての狂句をおもひ出て、其風調に
   倣ふ

小春凪真帆も七合五勺かな

   浪花遊行寺にてはせを忌をいとなみける
   二柳庵

簔笠の衣鉢つたへて時雨哉

いばりせしふとんほしたり須广の里

千葉どのゝ仮家引ヶたり枯尾花

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